沈めた風が海を押す
「では!まず!――おやつの時間!」
場の空気をぶった切るように、メイヤが明るく宣言した。
「持って来たので、食べながらお茶しながら進めましょう!!」
張り詰めていた空気が、少しだけ緩む。
菓子と茶が配られ、ようやく人心地ついたところで、アステリアが口を開いた。
「……しかし、だ。結局どんな仕組みを考えたんだ?」
メイヤは、あっさりと言った。
「私の思いついたのは――風車!」
「……風車?」
「ええ。あれを、海の中に沈めたイメージ!」
その瞬間、アステリアは無言で技術者たちを見る。
一瞬の沈黙――
そして、数人が同時に、はっとした顔で頷いた。
「……っ!」
「ロットさんに頼んで、それっぽいのを作ってもらったわ!」
そう言って差し出されたのは、木製の簡易模型。
「フォフォ!」
「メイヤちゃんに言われた時は“?”じゃったがな」
「絵が芸術的でのう……あれを形にするのは苦労したわい」
「は、は、は……」
場に乾いた笑いが落ちる。
「性能とか細かいことは、今は無視!」
「蒸気機関と組み合わせて、風に頼らず前に進むこと!」
「改良は後回し!仮の名前を――“スクリュー”としましょうか」
「……」
誰も否定しなかった。
否定できなかった、が正しい。
「それと、船の改造案はこれ」
今度は船体の図。
「側面から吊り橋みたいなのを降ろして、直接港へ」
「もちろんイメージよ。強度とか設置位置は……分からないから任せるわ」
技術者たちの顔が引きつる。
「でも、下ろす扉の大きさは――」
「できれば馬車一台分の間口で」
「……っ!?」
両隊長が同時に声を上げた。
「まさか……!」
「一気に兵力を降ろす気か!?」
「そうよ」
メイヤは頷く。
「本来は荷の積み卸し効率化でも、今は違う」
静かな声だったが、重かった。
「ここからは隊長たちに作戦を考えてほしいの」
「荷馬車が積めるか、馬が積めるかは不明」
「積めるなら、ロウルの船員を馬車ごと」
「無理なら、うちの騎兵を」
「……」
「色々なパターンを考えて」
「おばあちゃんの所へ速攻で情報収集」
「それから王都側、近衛、王室筋――持ってる情報は全部」
隊長たちの目が鋭くなる。
「そして――」
「可能な限り、“私たちが街中に上陸した”と噂を流す」
「エドランドには事前に通達しておく」
「……なるほど」
「そうすれば、傍観者も反乱の首謀者も――」
「動かざるを得なくなる、か?」
「そう!」
「向こうにいる近衛も!敵も!味方も!」
完全に、盤面を揺らしにいく策だった。
「各関連の“やる事”は、もう担当に渡してあるわ」
「それぞれ、最終的に“改造する船”へ向かう流れよ」
「いや、待て!」
アステリアが割って入る。
「改造するにしても、一度うちの港へ戻して往復すると――」
「移動だけで相当な時間を取られるぞ!」
「それも防ぎたいわ」
メイヤは即答した。
「浮きドックを使います」
「……浮きドック?」
「これも理論上の話だけど」
「満ち潮の時に、船を可能な限り砂浜へ寄せる」
「そこに、あの浮桟橋を両サイドから」
「浮かす、というより――持ち上げるイメージ」
技術者たちが、頭の中で構造を組み始める。
「その状態でスクリューを取り付け」
「蒸気機関も、浮桟橋からなら載せられるでしょ?」
「……なるほどな」
アステリアは深く息を吐いた。
「イメージは分かった」
「まずは理論計算からだな」
「特に船の改造は、俺達ロウル側が主力だ」
「鉄も木材も、各担当に直接話してくれ」
「解った」
短い返事。
だがその場にいた全員が理解していた。
――もう、止まれない。
沈めた風が、いま、確かに海を押し始めていた。




