白旗の上がる音
どうする?
どうする?
どうする――!?
先ほど頭の中で巡らせた最悪の懸念が、目の前で現実になり始めている。
始まってる……完全に始まってる!!
ロウルの技術者たちは顔色真っ青だ。
無理もない。さっきまで「もしも」の話だった懸念が、そのまま工程表になって転がり始めたのだから。
俺たちが考えていた後方型の仕組みも……簡単に突破された。
いや、突破ですらない。壁にも切り札にもなっていなかった……
メイヤの顔が脳裏に浮かぶ。
あいつだ。あいつは、時間がかかろうが、やると言ったら必ずやる!
やらなきゃ気が済まない性格だ……!
アステリアが頭を抱え、思考がぐるぐると空回りしているその最中――。
「ロットさん!木材の供給状況は?」
「町の工事が中止になったから、たっぷりあるぞ!それにドック?港?だろ?作ってる間に、もっと貯まるわい!やっと作りかけの船も完成させられるのう!」
こいつか!!
ロットは目を輝かせていた。
「この歳で船が作れるとはなぁ!!わし、燃えとるぞ!!」
このクソじじい!!
「タルトさん!余ってる蒸気機関、アステリアさんに渡してあげて!」
「…………」
「……おっ、おうー!」
完全に流れが決まっていく。
「メイヤちゃん!メイヤちゃん!造る船って、どんな船なんじゃ?」
「そうねぇ。予定だと、大きさは今の倍くらいの長さかな?形は流線型よ」
「ほうほう!」
「蒸気機関は二基搭載予定。搭載量も速度も、今までの倍はいけると思うわ」
「――はっ!?」
倍?速度も、搭載量も?
利益は……?
アステリアの頭が、別方向にフル回転を始める。
「人もたくさん乗せるのか?」
「ううん。乗員はむしろ少なくなるわよ?」
「帆が要らなくなるもの」
……間違ってない!俺も同じ結論に行き着いていた
だが――。
待て待て待て!!
船すら持たない領地で、そこまで考えてるのか!?
メイヤを見る。
こいつだ……
下手をすると、ここで量産して世界中にばら撒くぞ……
性能を思い浮かべる。
こんな船……今の三倍以上の価格でも、余裕で売れる……!!そんな事したら造船も行ってるうちの領地は!!
アステリアの目から、ぽろりと涙が落ちた。
「……降参だ」
誰に向けるでもなく、絞り出すような声。
「……勘弁してくれ……」
そして、ついに叫んだ。
「船はやる!!好きに改造しろ!!もう好きにしてくれぇぇ!!」
その瞬間、部屋の空気が一気に緩む。
メイヤはにっこりと微笑み、こう締めくくった。
「ありがとうございます、アステリアさん」
「では――本格的に始めましょうか」
ロウルの誇りは、この日、完全に白旗を上げた。




