理論の先にいる者
「アステリア様!」
ロウルの技術者たちは、扉を閉めた途端、堰を切ったように口を開いた。
「皆、あの発言……どう思う?」
アステリアが腕を組み、低い声で問いかける。
「我々が、やっと行き着いた答えを……あっさりと口にしましたな」
「ええ。あの言い方……俺たちが行き着く“前”に、すでに答えを持っていたように聞こえました」
「現実性はさておき、理論的には我々の一歩先を行っている……そう感じます」
アステリアは目を細めた。
「水車型の設計は、どこまで進んでいる?」
「両側式はほぼ完成です。後方型は……途中段階、といったところでしょうか」
「メイヤが言っていたのは、どちらだと思う?」
「断言はできませんが……“より効率的”と言っていました」
「効率がいいのは?」
「後方型です。側面型は接岸に難がありますから」
「だよな……」
沈黙が落ちる。
「我々も最終的には後方型で量産を考えていました」
「ですが……蒸気機関が問題です。我々は船造りは得意ですが、あれは別分野だ」
「……まさか、断れば蒸気機関を渡さない、なんて事は」
別の男が首を振った。
「いえ。その可能性は低いかと」
「何故だ?」
「最初からここにあった小型船、覚えていますか?」
「ああ。砂浜に数隻あったな」
「はい。正直、最初は興味を引かれませんでした。しかし、よく観察すると……」
「何だ、早く言え」
「推測ですが、一方は高速移動に特化した船。人員輸送用でしょう。もう一方は、荷を運ぶことに特化した船です」
「……あんな小型船で荷物用?あり得ん」
「私もそう思いました。今は漁船として使われています」
「では何がおかしい?」
「もし、あれを“そのまま大型化”したら? そして、そもそも小型船が大型船建造の実験段階だとしたら?」
「……」
「漁師に確認した所、使い勝手の良し悪しをすべてメイヤ様に報告するよう言われているそうです」
「なっ……」
「さらに、小型船の保管庫を覗いた所……作りかけの船を見つけました。小型ながら、人員輸送と荷物輸送、両方の機能を持つ構造でした」
沈黙が重くのしかかる。
「急いではいない、と言われたそうです。“まだ肝心な部分の小型化が完成していないから”と」
「……最初から、蒸気機関を載せる前提か?」
「断言はできませんが、その可能性は高いかと。そもそも、この地には大型船を建造する港もありません」
「つまり……優先順位が低いから放置しているだけ」
「はい。本当に必要になれば、すぐ建てるつもりなのでしょう」
アステリアは、ゆっくりと息を吐いた。
「……蒸気機関を渡しても、さらに上を行く船を造れる自信がある、か」
拳を握りしめる。
「よし。念の為、俺がカマをかける」
技術者たちが一斉に顔を上げた。
「メイヤの出方次第だ……この賭け、受ける価値があるかどうか、な」




