静かな賭けと蒸気の行方
ロウル領の方々のために用意された宿舎。その一角にある一室に、一同は集められていた。
アステリア以下、ロウル領の技術者全員。
それにこちら側からは、両隊長、リディア、木工師ロット、鍛冶士タルト、錬金術師ブルー、各秘書そして関係がありそうな学術員が数名。
無論、この場を召集したのはメイヤだった。
まさか、たまたま作った宿舎が、こんな形で役に立つとはね……
ここは他国の領地。
一般人が立ち入ることはまずない。
極秘の話をするには、これ以上ない場所だった。
「忙しい所、集まってくれてありがとうございます」
メイヤが一歩前に出る。
「本日の目的ですが――温泉……ではありません」
一瞬、場が緩みかけたが、次の言葉で一気に締まった。
「反乱を沈静化させるための計画です」
ざわり、と空気が揺れる。
「最初に言っておきます。どれか一つでも計画が進まなかった場合、この話は即時中止。関係書類はすべて焼却します」
その一言で、部屋の空気は凍り付いた。
「これから配る書類をご確認ください」
配られた紙に、全員の視線が落ちる。
「「「なっ!!」」」
そこに書かれていたのは――
船改造計画(強襲揚陸艦)
案の定、真っ先に噛みついたのはアステリアだった。
「テメー!うちの船を、訳の分からん改造するだと!?」
無理もない反応だ。
しかも他国の人間が、ロウルの宝とも言える船に手を入れると言っている。
「アステリアさん、落ち着いて……と言っても無理ですよね」
アステリアは今にも飛びかかりそうな勢いだった。
だが、メイヤは一切動じず、淡々と続ける。
「アステリアさんと、そちらの技術者の方々が悩んでいる蒸気機関の“海での使い道”。その解決方法を思いつきました」
「「なっ!!」」
「もちろん、現段階では理論上の話です。これから実験、試験、運用と進める必要があります」
一拍置き、
「ですが、船改造計画を了承していただけるなら、その理論と、蒸気機関を無償で提供します」
「「な……」」
ロウル側が一斉にざわめいた。
アステリアの脳裏に苛立ちが走る。
馬鹿にしているのか?
蒸気の海上利用など、すでに水車を元にした設計が進んでいる。
水が動力なら、逆にすればいい――それは彼女達も考えていた。
「メイヤ……私たちを馬鹿にしてるのか?そんなも――」
だが、言葉を遮るようにメイヤが口を挟んだ。
「水車のようなもの、ですか?」
「!?」
「私が思いついたのは、それよりも、もっと効率的で無駄のない方式です」
さらりと、
「理論上ですが、簡易な模型はすでに手元にあります」
空気が、変わった。
「ここで即答を求めるつもりはありません。ロウルの方々だけで話し合いたいのであれば、私たちは部屋を出ても構いません」
ロウルの技術者たちが、一斉にアステリアを見る。
アステリアは拳を強く握りしめ、歯を食いしばった。
「……どれくらい時間をもらえる?」
「長くなるようでしたら、一時解散でも結構です」
「分かった。長引かせるつもりはない。解散も含めて、1時間ほどで答えを出す」
「了解しました。お待ちします」
そう告げたメイヤの表情には、焦りも強制もなかった。
ただ一つ――この賭けに勝つ自信だけが、静かに宿っていた。




