王道と行き止まり
とは言ったものの――。
確かに隊長さんの言った策は、一番の近道だ。王道と言っていい。
だが兵力、補給、その両方を冷静に並べてみると……やっぱりダメね。
短期間。
これは譲れない。長引けば温泉計画に影響が出る。
……あっ。募集も取り下げないと。
まずはアステリアさんに聞いてみるしかないわね。
そもそも、こういう話……答えてくれるのかしら?
「は?兵力がどれだけあるか、だと?」
一瞬、間が空いた後、アステリアは大きく笑った。
「はっははは!随分と聞きづらいことを、随分とあっさり聞くな。逆に気持ちがいい」
「で?どうなの?」
「準備期間次第だが……船なら、いつでも動かせるのは三隻。時間をもらえれば最大で十隻だな」
「船……か」
私の呟きに、アステリアは肩をすくめた。
「うちはどうしてもそうなる。進軍する気か? 正直に言えば、陸上戦力と呼べるものはほぼ無い」
「船の乗員が、そのまま陸上兵力だ。馬に乗れる者も少ないし、精々歩いて行ける距離までだな」
「馬が扱えない以上、荷馬車で物資を運ぶことも出来ん」
「……なるほど。ありがとう」
「すまんな。だから俺のところも、動きたくても動けなかったんだ」
確かに、ロウル領の地形を考えれば納得がいく。
背後は攻略不能に近い天然要塞。前は海。
海軍力に全振りするのは、領地として合理的だ。
言い換えれば――陸上戦力は、必要とされてこなかった。
だが、だからこそ問題でもある。
仮に、こちらが補給を支え、ロウルの乗員を陸に上げ、エドラン軍と合流したとしても。
そもそも彼らには、陸戦としての運用ノウハウが無い。
指揮できる人員も、うちには揃っていない。
「……うーむ」
王道は見えている。
だが、その道は途中で完全に行き止まりだ。
短期決着。
補給線を荒らされない。
人的損耗を最小限に。
条件は揃っているのに、駒が足りない。
――さて。
この盤面、どう崩す?
気がつけばメイヤは、浮桟橋までとぼとぼと歩いて来ていた。
やっぱり船は良いわね。……海賊旗、立てたい。
海を見ながら、そんな馬鹿なことを考えつつも、頭の中は止まらない。
海からの補給は、確かに可能。
ロウルの強みも、うちの立ち位置も、そこにある。
でも――。
「……遅いわね」
停泊している船を眺めながら、ぽつりと零す。
どう見ても、この型の船は荷卸しに時間がかかる。
クレーン、滑車、人手。全部が揃って、ようやく、だ。
戦場でそんな悠長なことをしていたら、補給地点を丸ごと叩かれて終わりだ。
「……型を変える?」
船そのものを?
ふと、記憶の奥が引っ張られた。
――確か。
孫を連れて、海自基地のお祭りに行った時。
案内の人が、得意げに船の説明をしていた。
『この艦はですね、強襲揚陸艦といって――』
「……強襲揚陸艦」
声に出した瞬間、背筋に電気が走った。
そうだ。
兵を“運ぶ”船じゃない。
兵を“下ろす”ための船。
港がなくてもいい。
桟橋がなくてもいい。
海岸線に直接、戦力を展開できる。
「この船を……」
メイヤの視線が、浮桟橋から、その先の海へ伸びる。
「改造して、陸上戦力を速やかに下ろす機能を付ける」
荷卸しじゃない。揚陸だ。
船首を開き、兵を、物資を、一気に吐き出す。
短時間。一箇所集中。補給と展開を同時に終わらせる。
「……行けるわ」
思わず、口元が緩んだ。
ロウルの船。
ロウルの海軍力。
陸戦のノウハウが無いなら、そもそも陸戦をさせなければいい。
上陸して、叩いて、撤退する。
長期占領もしない。
補給線も伸ばさない。
「短期決戦……条件、全部満たしてるじゃない」
温泉計画も止めない。戦争も長引かせない。
誰も考えていないのは、
“船で戦争を終わらせる”発想だから。
メイヤは、浮桟橋の端で立ち止まり、深く息を吸った。
「……隊長、これは斜め上どころじゃないわよ」
海風が、静かに髪を揺らす。
だがその目は、もう完全に――
答えを見つけた者の目をしていた。




