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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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斜め上という名の賭け

機構隊長は、ガリオン領内各地の機構から送られてくる報告書と、じっと睨み合っていた。

机の上には、整理された紙束と地図。だが、そこに並ぶ文字は、どれも似たような内容ばかりだ。


「……どうだ?状況は」


近衛隊長が、腕を組んだまま問いただす。


「余り変化はないな。膠着、停滞、様子見……どこも同じだ」


「長引きそうか?」


「恐らくな。周囲も判断に喘いでいる」


近衛隊長は小さく舌打ちした。


「漁夫の利を狙う連中が多すぎるな。動いた途端、背後を突かれるのを皆が恐れている」


「はぁ……全く、嫌になる」


機構隊長は椅子にもたれ、天井を仰いだ。


「……なあ」


「何だ?」


「気が進まないのは同じだが、このまま長引けば、被害は確実に広がる。巻き込まずに済ませたいが……」


「まさか」


近衛隊長が眉をひそめる。


「お嬢ちゃんに相談するつもりか?」


「ああ。そうだ」


「……正気か?」


「分かってる。隠しているわけじゃないが、かといって今この状況で、何か出てくるとは思えん」


「だよな」


「だがな」


機構隊長は、口の端を少しだけ上げた。


「いつも斜め上を行くからな。“もしかしたら”って思ってる俺も、確かにいる」


「……それを否定できないのが、また厄介だな」


二人は短く息を吐いた。


「その前に、領主様にご意見を伺うのが筋か?」


「本来は、そうだな」


「じゃあ、行ってくるか」



「……状況に変化なし、か」


領主は報告書を閉じ、静かに呟いた。


「はい。残念ながら。ただ、このまま長引けば、ここもいずれ疲弊が始まります」


「それは理解している」


一瞬の沈黙の後、機構隊長が言葉を選ぶように口を開いた。


「そこで、私から一つ提案があります」


「何だ?」


「……おじょ――いえ、メイヤ様に、この状況を報告させていただいてもよろしいでしょうか」


「メイヤに?」


「はい。“もしかしたら”に賭けたいと考えています。もし何も出てこなければ、それはそれで構いません」


領主は少し考え込み、やがて苦笑した。


「正直なところ、この状況でどうにかなるとは思えん。だが……」


小さく肩をすくめる。


「ここまで来たら、賭けるのも悪くないか」


「では」


「構わん。報告してくれ」


「了解しました!」


機構隊長は深く一礼し、部屋を後にした。


誰もが期待していない。

だが誰もが、心のどこかで――

“また何かやらかすのではないか”と、思っていた。


斜め上という名の、最後の賭けが投げられた瞬間だった。

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