仮同盟の輪郭
「ナータ様!はぁ、はぁ……!」
「どうしたの?」
「大変な情報を仕入れて参りました」
「……これ以上に?」
「はい!ロウル領の件です」
「ロウル領?あの中立を謳っている?確か、この半島の先にある……」
「はい!どうやら、ここと内乱中は仮同盟を結んだと」
「はぁ?同盟??そんな話、発布されていないはずよ?」
「はい!勿論です!しかしながら、我が領も仮の同盟を結んでおります。内乱中ゆえ、こちらも発布はされておりません!」
「……そうか。内乱中だから、どこが敵か分からない。だから水面下で、ね」
「恐らく、我が領と同じ状態かと」
「でも、その話はどこから?」
「町で情報を集めていたところ、見慣れない服を着た数名を見つけまして。話を聞いたところ、ロウル領からの技術者だと判明しました!」
「……はぁ?技術者?ロウル領から?ここは、既に受け入れてるの?」
「そのようです!」
「待って……アステリア・ロウル?あの男装の……。まさか、領主本人がここに?」
「私は、アステリア・ロウル様を見たことはございません……」
ナータは、静かに目を伏せた。
私は……どこかで見たことがあると思っていた。でも“男装”だけに囚われて……。そこでも、私は見誤っていたのね。
「爺!お父様へ、この件を文にして出しなさい!それと、領内へ向けて、技術者をこちらに寄越すようにと!」
「……どの技術者を、でございますか?」
「…………分からない……」
自分の声が、少し弱くなったのが分かった。
「はぁ〜……気が重いな〜」
「隊長、しっかりしてくださいよ」
「そうですよ!」
「……よし。気合、入れるか!!」
「おはようございます、御三方」
振り返ると、そこに立っていたのはセリア、リディア、そしてアステリアだった。
「おはよう。どうしたの?隊長さん」
「えーっと……難民で仕事を求めている者を連れて参りました。二人とも読み書き計算ができ、剣術もそこそこ。リディア様とアステリア様の秘書などにと思いまして」
「秘書?私は必要ないかな?」
「俺も、部下が数名こちらに来ているからな」
「い、いえ……リディア様。何かとお忙しいでしょうし、隊長たる者、秘書が一人二人いれば、いざという時に頼りになりますよ!」
「あー……確かに、そう言われるとそうね」
「アステリア様も、この不慣れな地。気軽に聞ける秘書がいれば、お役に立てるかと!」
「……言われると、そうかも」
そこへ、セリアが一歩前に出た。
「あら〜!!二人ともいいじゃない!!私の見立てだと、この二人、かなりこの領地のこと詳しいわよ!」
「え?そうなの?難民さんなのに?」
「二人とも、事前に勉強してきたのよ〜! こ・ま・か・く・ね!!」
「……」
「まだ若いから、詰めが甘い所と、自意識過剰気味な点を除けば、かなり優秀よ。それに、私が色々教えられることもありそうだし」
「「「絶対にお前が犯人だろ!!」」」
と心の中で思う3人だった。
「それなら、二人とも是非お願い!」
「そうだな。俺も頼むぞ!!」
その場の空気が、一瞬だけ和らいだ。
だが誰も気づいていない。
この“秘書”という名の配置が、やがて各領の均衡を静かに揺らすことになるなど――。




