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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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普通を捨てる覚悟

その日の夕食時、ナータの髪が乱雑に切られていることに気づいたのは、たまたま同席になったリディアだった。


「ナータ様!その髪……どうなさったのですか?」


「私自身の不甲斐なさへの罰です」


「え?一体、何が……?」


「大丈夫ですので、気になさらずに」


「でも……」


「これは、私への罰です」


「……はぁ……」


それ以上、リディアは何も言えなかった。

その声色が、冗談や感情的なものではないと、はっきり分かったからだ。


その夜。


「爺!」


「はい、ナータ様」


「根本が、間違えていたわ」


「……昼のやり取りでございますな。ここの“普通”と、私達の“普通”。あまりにも大きな隔たりがございます」


「そう。“普通”よ。その違和感に、私はすぐに気づけなかった」


ナータは一度、深く息を吐いた。


「明日からは……いいえ。今からよ。私達の“普通”は、捨てましょう」


「……承知いたしました」


翌日。

ナータと爺は、改めて領都を細かく見て回ることにした。


昨日訪れた店は、すでに開店準備の最終段階に入っており、数日後にはオープンするという。

隣の店に何ができるのかと尋ねると、


「さあなぁ。よく分からんが、白いスープの食いもんらしいぞ」


と、あっさりした返事が返ってきた。


……あのスープね。


ナータは、昨夜の夕食を思い出す。

自分が衝撃を受けた、あの白いスープ。

それを、領民向けに“普通に”広めている。


料理ですら、ふ、つ、う、なのね……


思うところは山ほどある。

だが、昨夜、ナータの中で「自分の普通」はすでに消えた。


町並みも、改めて見ると違って見える。

道幅、建物の配置、柱や壁の長さ。完全に同一ではないが、驚くほど揃えられている。


「……効率、なのね」


つまらない町並みと感じる者もいるだろう。

整列しすぎて息苦しいと感じる者もいるかもしれない。だが、これは明確に“効率の町”だ。


そう考えれば……


今、住まわせてもらっている領主館の内装も、同じだ。

豪華さではなく、使いやすさ。動線。無駄のなさ。


私は、調度品を見て“無理をしている”と思った。


違った。答えは、そこではなかった。

私が来るから……私に、合わせたのね。


本来なら不要な物。

この領地にとっては、なくても困らない物。

それを、わざわざ用意した。


……情けない。


考えれば考えるほど、胸の奥が痛んだ。

自分は、理解したつもりで、何も見ていなかったのだ。


ナータは町並みを見つめながら、静かに拳を握った。


今度こそ……見誤らない。


その目には、もはや“格下を見る視線”は残っていなかった。

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