浮かぶ道、動き出す歯車
浮桟橋は完成した。
アステリアさんにも最終確認をしてもらい、水深も再チェック。問題なし!
早速、沖合に姿を現したのは大型船。
ガレオン船風……いや、もう見た目は完全に海賊船だ。
もちろん海賊ではないけど。
どうやら国では、ガレオン船の設計・建造・修繕に関わっている人達を中心に、数名の技術者と料理人まで連れて来たらしい。
到着早々、荷物の積み下ろしが始まる。
馬車をそのまま乗せても、浮桟橋はびくともしない。
この時点で、来たばかりの技術者達の目が変わった。
波の動き、浮力の分散、固定方法、改良点。
質問が止まらない。
やっぱり海の事に関しては、彼らの方が専門家だ。学術員とも話が合いそうだし、今後は色々と連動していきそうな予感しかしない。
うん、またいい流れが出来たわね。
荷を降ろした一行は、そのまま領都へ。
領都の外れ、工場群の近くにロウル領専用の住居を用意してある。
一緒に生活してもらった方が、何かと便利だと思って。
荷物の中には、お父様宛の箱もあった。
友好の証……的な?
まあ私は政治に関わる気はないから、そこは丸投げ。完全に丸投げ対応で。
そして敷設隊も、気がつけば残り最後の区間。森の近くを引けば、ついに終わり!
ここだ。
ここから、やっと温泉計画がスタート出来る!
それに使うU字溝の備蓄も、かなり溜まった。
線路のお陰で、今まで使っていた荷馬車にも余裕が出る。
その分を、温泉計画の輸送に回せばいい。
ふぅー……長かったわ。
でも、ようやくここまで来た。
浮かぶ道は完成し、歯車は確実に回り始めている。
あれから何度も領都に出て、歩き、眺め、話を聞き、観察を続けている。けれど――何も発見出来ない。
隠している様子すら、無い。
不自然な動きも、警戒も、制限も無い。
……何故?私は、一体何を見落としているの?
「ナータ様!ナータ様!」
急ぎ足で駆けて来た爺に呼ばれ、思考を中断する。
「如何したの、爺!」
「解った様な気がします!」
「……何が?」
「あの串焼肉屋の隣、覚えてますか?」
「あー!中々の美味わよね?」
「はい!じゃ無く!隣の空地です!」
「……あー。確かに。何かお店でも建てる様な感じだったわよね?」
「それです!それ!」
「……はい??」
「もう、建ってます」
「…………はぁ?」
「確かまだ更地じゃ無かったかしら?」
「それは二週間ほど前のお話です」
「今はもう、開店準備をしております!!」
一瞬、言葉を失う。
「……建物って、そんなに早く建つものなのね?何をそんなに大袈裟な……」
「違いますぞ、ナータ様!」
「爺の声が、珍しく強い」
「私も詳しくはありませんが、普通はそんな速度では建ちませぬ!最低でも二ヶ月は掛かります!」
「……え?」
「じゃあ、どうしてそんなに早く?」
爺は一拍置き、低い声で続ける!
「それこそが、この領地の“謎”ではありませんか?」
「―その瞬間」
「頭の中で、何かが音を立てて噛み合った」
建築が早い。改修も異常に速い。領主館の増改築。工場群の立ち上がり。
全てが「早すぎる」。
しかも、誰も隠そうとしない。当たり前の様に、日常として流れている。
私は……
「何があるか」ばかりを探していた。
けれど違う。
ここは――やり方そのものが違う領地。
はっと息を呑むナータ。
……そうか。隠していたんじゃない。
私が、常識に縛られていただけだったのね。
ようやく、霧の向こうに輪郭が見え始めていた。




