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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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自由すぎる朝

「ん〜……お嬢様、おはようございます」


「おはよう。爺。よく眠れたわ」


「それは何よりでございます」


ナータはゆっくりと上体を起こし、柔らかな寝具を指で確かめた。肌触りが良い。王都のそれと比べても遜色ないどころか、妙に落ち着く。


「この寝具……中々良い物ね」


「はい。質はかなり良いかと」


「朝食は?」


「それが……先程確認したところ、朝食時間は決まっておらず。“各自好きな時間にどうぞ”との事でした」


「……え?」


思わず眉を上げるナータ。


「男爵家って、皆そうなの?」


「いえ。私も初めて聞きました。爺――私自身も、今情報を集めているところでございます」


「ふぅん……自由な家柄、ね」


違和感はあるが、不快ではない。むしろ肩の力が抜ける。


「じゃあ、朝食に行きましょう」



食堂に入ると、すでに準備は整っていた。


「おはようございます」


「おはよう。あなた、ミュネさんだったわね」


「はい!本日はパンにされますか?それともご飯に?」


「……ご飯?」


「白くて粒々した、炊いた物です」


説明を聞いても想像がつかないが、好奇心が勝った。


「それをお願いするわ」


「かしこまりました!」


運ばれてきたのは――


白い粒々の山。

茶色い香り高い汁物。

焼き魚の丸焼き。

黄色い卵のような物。

青菜を湯通ししたらしい副菜。


「……」


ナータは一瞬、言葉を失った。


「フォークとナイフは?」


「こちらでは“箸”を使います。こうやって……」


ミュネが器用に二本の棒を動かす。


「……器用ね」


「フォークもご用意しますか?」


「いえ。試してみるわ」


――結果。


難しい。非常に難しい。


粒は逃げるし、魚は崩れる。だが、不思議と味は良い。


「……美味しい」


だが食後、妙な疲労感が残った。


「慣れれば便利そうだけど……今日はもう十分ね」


「お部屋に戻られるなら、お茶をお持ちします」


「ありがとう」



部屋に戻ると、爺が待っていた。


「情報は?」


「はい。領主様は朝から執務室。奥様、リディア様、ミュネ様、パナー様は朝から訓練を」


「訓練?」


「訓練というより、強めの朝の運動といった様子でした」


「……男爵家よね?」


「はい。なお、パナーと申す者はメイヤ様の秘書との事です」


「秘書?あの年で?」


「はい」


ナータは静かに息を吐いた。


「で、そのメイヤって子は?」


「アルテリア様と共に、海方面へ視察に向かわれたと」


「アルテリア……男装していた女性ね」


「はい」


ナータは窓の外を見つめる。


朝食は自由。家族は訓練。次女が秘書を連れて視察に同行。


「……やっぱり、普通じゃないわね」


だが、その異常さはどこか心地よかった。


「爺」


「はい」


「焦らなくていいわ。ここは……じっくり観察する価値がありそう」


爺は静かに頷いた。


この男爵領は、表から見える以上に――深い。

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