自由すぎる朝
「ん〜……お嬢様、おはようございます」
「おはよう。爺。よく眠れたわ」
「それは何よりでございます」
ナータはゆっくりと上体を起こし、柔らかな寝具を指で確かめた。肌触りが良い。王都のそれと比べても遜色ないどころか、妙に落ち着く。
「この寝具……中々良い物ね」
「はい。質はかなり良いかと」
「朝食は?」
「それが……先程確認したところ、朝食時間は決まっておらず。“各自好きな時間にどうぞ”との事でした」
「……え?」
思わず眉を上げるナータ。
「男爵家って、皆そうなの?」
「いえ。私も初めて聞きました。爺――私自身も、今情報を集めているところでございます」
「ふぅん……自由な家柄、ね」
違和感はあるが、不快ではない。むしろ肩の力が抜ける。
「じゃあ、朝食に行きましょう」
食堂に入ると、すでに準備は整っていた。
「おはようございます」
「おはよう。あなた、ミュネさんだったわね」
「はい!本日はパンにされますか?それともご飯に?」
「……ご飯?」
「白くて粒々した、炊いた物です」
説明を聞いても想像がつかないが、好奇心が勝った。
「それをお願いするわ」
「かしこまりました!」
運ばれてきたのは――
白い粒々の山。
茶色い香り高い汁物。
焼き魚の丸焼き。
黄色い卵のような物。
青菜を湯通ししたらしい副菜。
「……」
ナータは一瞬、言葉を失った。
「フォークとナイフは?」
「こちらでは“箸”を使います。こうやって……」
ミュネが器用に二本の棒を動かす。
「……器用ね」
「フォークもご用意しますか?」
「いえ。試してみるわ」
――結果。
難しい。非常に難しい。
粒は逃げるし、魚は崩れる。だが、不思議と味は良い。
「……美味しい」
だが食後、妙な疲労感が残った。
「慣れれば便利そうだけど……今日はもう十分ね」
「お部屋に戻られるなら、お茶をお持ちします」
「ありがとう」
部屋に戻ると、爺が待っていた。
「情報は?」
「はい。領主様は朝から執務室。奥様、リディア様、ミュネ様、パナー様は朝から訓練を」
「訓練?」
「訓練というより、強めの朝の運動といった様子でした」
「……男爵家よね?」
「はい。なお、パナーと申す者はメイヤ様の秘書との事です」
「秘書?あの年で?」
「はい」
ナータは静かに息を吐いた。
「で、そのメイヤって子は?」
「アルテリア様と共に、海方面へ視察に向かわれたと」
「アルテリア……男装していた女性ね」
「はい」
ナータは窓の外を見つめる。
朝食は自由。家族は訓練。次女が秘書を連れて視察に同行。
「……やっぱり、普通じゃないわね」
だが、その異常さはどこか心地よかった。
「爺」
「はい」
「焦らなくていいわ。ここは……じっくり観察する価値がありそう」
爺は静かに頷いた。
この男爵領は、表から見える以上に――深い。




