甘味の裏側、違和感の輪郭
ふぅ……。
「爺」
「はっ。ナータ様」
ナータは椅子に深く腰掛け、長い一日を思い返すように天井を仰いだ。
「ここまでで、屈託のない意見を述べよ」
一拍置き、老執事は静かに口を開いた。
「はい。領内の様子ですが……正直に申し上げますと“普通”でございます。新しい建物は目立ちますが、男爵領としては平均、やや下といった印象。人口もそれほど多くはないかと」
「……私も同じ印象よ。他は?」
「領主館に関しては、建築中と聞いておりましたが、実態は修繕と増改築。構造自体は古く、しかし内装は手が入っております。豪奢とまではいきませんが、男爵領としては過分」
「ふむ……」
ナータは顎に指を当て、目を細める。
「けれど――夕食よ」
「はい」
老執事の声音が、わずかに変わった。
「出された料理の数々。私も見たことのない物ばかりでございました」
「私も驚いたわ。あの白いスープ……最初は正直、“何これ?”って思ったもの」
「恐れながら、私もでございます。見た目は質素、しかし味は非常に濃厚。使われている素材も調理法も、王都では見かけませぬ」
「そうなのよ」
ナータは小さく笑い、しかしすぐに真顔に戻る。
「そして、最後の……あれ」
「デザートでございますな」
「そう!ショートケーキ!!あの砂糖の量! 王都でもあの甘さは中々お目にかかれないわよ!」
「チーズケーキもでございましたな。チーズを使って、あの滑らかさ……」
「そう!チーズよ!?それなのに、あの濃厚さとクリーミーさ……」
思い出しただけで、ナータは軽く息を吐いた。
「ねえ、爺。お父様は……今、進軍中よね?」
「はい。戦時下でございます」
「この料理、食べてると思う?」
「……恐れながら、それは無いかと」
ナータは小さく鼻で笑った。
「でしょうね」
しばし沈黙。
「では、お父様が“注意せよ”と言った理由は何処にあるのかしら?」
「……まだ断定は出来ません。ただ」
「ただ?」
「この領地――どこか、ちぐはぐでございます」
ナータは静かに頷いた。
「私もそう思う。あれだけの砂糖を恒常的に使えるなら、領主館を一から建て直してもおかしくない」
「はい」
「なのに、建物は慎ましく、料理だけが異様に突出している」
ナータは目を伏せ、ゆっくりと結論を口にする。
「お金の使い所を“選んでいる”……?」
「あるいは、見せていない何かがあるのかと」
「ええ」
ナータは立ち上がり、窓の外――静かな男爵領の夜景を見つめた。
「まだ初日。判断するには、時間はたっぷりあるわ」
そして、ふと呟く。
「……次女のメイヤ」
「はい。お父上が特に注意せよと」
「病弱でもなければ、特別おとなしい訳でもない。むしろ……」
ナータの口元に、わずかな笑みが浮かぶ。
「一番、何を考えているのか解らない」
老執事は静かに頭を下げた。
「では――そこを重点的に、観察致しましょう」
「ええ」
甘い香りの残る夜の中、“違和感”は、確かに輪郭を持ち始めていた。




