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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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甘味の裏側、違和感の輪郭

ふぅ……。


「爺」


「はっ。ナータ様」


ナータは椅子に深く腰掛け、長い一日を思い返すように天井を仰いだ。


「ここまでで、屈託のない意見を述べよ」


一拍置き、老執事は静かに口を開いた。


「はい。領内の様子ですが……正直に申し上げますと“普通”でございます。新しい建物は目立ちますが、男爵領としては平均、やや下といった印象。人口もそれほど多くはないかと」


「……私も同じ印象よ。他は?」


「領主館に関しては、建築中と聞いておりましたが、実態は修繕と増改築。構造自体は古く、しかし内装は手が入っております。豪奢とまではいきませんが、男爵領としては過分」


「ふむ……」


ナータは顎に指を当て、目を細める。


「けれど――夕食よ」


「はい」


老執事の声音が、わずかに変わった。


「出された料理の数々。私も見たことのない物ばかりでございました」


「私も驚いたわ。あの白いスープ……最初は正直、“何これ?”って思ったもの」


「恐れながら、私もでございます。見た目は質素、しかし味は非常に濃厚。使われている素材も調理法も、王都では見かけませぬ」


「そうなのよ」


ナータは小さく笑い、しかしすぐに真顔に戻る。


「そして、最後の……あれ」


「デザートでございますな」


「そう!ショートケーキ!!あの砂糖の量! 王都でもあの甘さは中々お目にかかれないわよ!」


「チーズケーキもでございましたな。チーズを使って、あの滑らかさ……」


「そう!チーズよ!?それなのに、あの濃厚さとクリーミーさ……」


思い出しただけで、ナータは軽く息を吐いた。


「ねえ、爺。お父様は……今、進軍中よね?」


「はい。戦時下でございます」


「この料理、食べてると思う?」


「……恐れながら、それは無いかと」


ナータは小さく鼻で笑った。


「でしょうね」


しばし沈黙。


「では、お父様が“注意せよ”と言った理由は何処にあるのかしら?」


「……まだ断定は出来ません。ただ」


「ただ?」


「この領地――どこか、ちぐはぐでございます」


ナータは静かに頷いた。


「私もそう思う。あれだけの砂糖を恒常的に使えるなら、領主館を一から建て直してもおかしくない」


「はい」


「なのに、建物は慎ましく、料理だけが異様に突出している」


ナータは目を伏せ、ゆっくりと結論を口にする。


「お金の使い所を“選んでいる”……?」


「あるいは、見せていない何かがあるのかと」


「ええ」


ナータは立ち上がり、窓の外――静かな男爵領の夜景を見つめた。


「まだ初日。判断するには、時間はたっぷりあるわ」


そして、ふと呟く。


「……次女のメイヤ」


「はい。お父上が特に注意せよと」


「病弱でもなければ、特別おとなしい訳でもない。むしろ……」


ナータの口元に、わずかな笑みが浮かぶ。


「一番、何を考えているのか解らない」


老執事は静かに頭を下げた。


「では――そこを重点的に、観察致しましょう」


「ええ」


甘い香りの残る夜の中、“違和感”は、確かに輪郭を持ち始めていた。

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