言葉にならない違和感
アステリアは、右手で槍を軽やかに回し、左手の剣先を静かに相手へ向けていた。
その姿勢に、隙という言葉は見当たらない。
「これじゃあ……隙どころか……」
誰かが呟いた、その瞬間だった。
「おい!周りで見てるやつ!」
アステリアの声が訓練場に響く。
「お前達の隊長がやられてるぞ!これは一対一の決闘じゃない!実戦訓練だ!! かかってこんかい!!」
「おりゃあああ!!」
最初に飛び込んできた学生が、次の瞬間――
ボコッ!
「動きが直線的すぎる!」
「この――!」
ボコッ!
「お前もだ!!」
「私だって――!」
「ほぅ、双剣か。いいね」
ボコッ!
次々と倒されていく学生達。
槍と剣が舞い、判断は早く、容赦がない。
「隊長さんや?休憩中か?」
「この――っ!!」
ガッキィン!
その一撃で、ついにアステリアの槍が弾かれ、宙を舞った。
もらった――!
だが、その瞬間。
アステリアの身体が不自然なほどしなり、
足だけで、リディアを払った。
「なっ……!?体術!?」
地面に転がるリディア。
「また“もらった”って思ったな」
余裕の声。
「ほらほら!まだ残ってるやつ!こいや!!」
今度は、武器すら使わない。
体術だけで学生達をいなしていく。
メイヤは目を見開いた。
「……嘘でしょ。体術だけ……?」
やがて――
学生隊、全滅。
「……女コマンドーじゃない……」
アステリアは軽く息を整え、倒れた学生達を見回す。
「明日から、お前達を鍛える。いいな?」
「……くそ……」
倒れたリディアが歯噛みする。
「お姉ちゃん、相当悔しそうね……」
メイヤが小さく笑う。
アステリアはリディアに視線を向けた。
「リディア、中々の動きだったぞ」
「はぁ……はぁ……貴女もね……」
その瞬間だった。
二人が同時に、ハッと顔を上げる。
「――!」
ほぼ同時に、模造刀を投げ捨てた。
カン! カン!
剣は、少し離れた一本の木に、深く突き刺さっていた。
「……何だ?」
沈黙。
リディアが眉を寄せる。
「私にも解らない……たまに、こういうのを感じるの。メイヤには、急に武器投げないでって怒られるけど……」
アステリアも、同じ方向を見つめたまま頷く。
「……俺も感じた。何かがおかしい。言葉には出来ないが……“違和感”だ」
風が、木々を揺らす。
そこには何もない――はずだった。
だが確かに、二人だけが気づいた“何か”が、そこにあった。




