才覚は波を越えて
「……アステリアさんって、確か養女だってお母様が言ってたわよね」
敷設隊の進捗報告に目を通しながら、ふとその疑問が口をついて出た。
優秀なのは間違いない。けれど、あの思考の速さと視点の飛び方は、ただの“出来る領主”では収まらない。
――一体、どんな人物なのか。
「お母様に聞いてみるか」
そう思い立って、メイヤは居間へ向かった。
「アステリアちゃん?」
お茶を淹れながら、母・セリアは少し懐かしそうに微笑んだ。
「学年は違ったけど……かなり優秀、だったわよ?」
「……その“?”は何?」
「だって、説明しづらいのよ」
首を傾げるメイヤに、セリアは指を折っていく。
「成績は常に次席。規則の理解と運用が得意。人をまとめるのも上手。それから――剣術、棒術、弓術、馬術。全部、学年トップクラス」
「……それ、ほぼ万能じゃない」
「でしょう?」
くすりと笑ってから、少し声を落とす。
「でもね、平民出身だったの」
「平民?」
「ええ。当時は今よりもっと露骨だったから。
貴族の子たちに、まあ……色々と、ね」
「嫌がらせ?」
「ええ。だから――」
セリアはさらっと言った。
「学年を跨いで嫌がらせしてきた貴族を、まとめてフルボッコにして有名になったのよ」
「……は?」
「学科でも実技でも正面から叩き潰して。
その後、勉強会を開いて“分からないなら教える”って言ったの」
メイヤは思わず口を開けた。
「……なにその、伝説」
「同性にも平民にも人気者だったわ。私は心配でね、お茶会に呼んで“あまりフルボッコしすぎないで”って宥めたりして」
「宥める内容じゃないと思うんだけど……」
「懐かしいわねえ」
しみじみする母を横目に、メイヤは理解した。
――元から、頭も腕も強くて、弱い立場の者に手を差し伸べるタイプ。
それがロウル領主の目に留まって、養女に迎えられた。
なるほど、納得しかない。
そのタイミングで、扉が勢いよく開いた。
「メイヤ!」
「……今度は何?」
「領主様から了解が取れた!ロウル領の技術者をここで受け入れてもらう!」
「はい??どゆこと?」
「そのまんまだ!同盟として正式に俺からお願いした!」
一瞬、言葉を失う。
「……ちょ、待って。技術者受入って、そんな軽く決まる話じゃ」
「それとこの領地に港を作ってくれ、小型船でちまちま運ぶのは非効率だし」
「港!?そんなの簡単に作れるわけ――」
「そうか?」
きょとんとした顔で言われる。
「お前なら、すぐ作れると思ったんだが」
「流石に無理!!」
即答だった。
「流石に無理か……」
だが同時に、胸の奥が少しだけ高鳴る。
技術者の交流。港という“海への窓”。
アステリア・ロウルという人物は――
ただ見て、学ぶだけで終わる気は、最初からなかったのだ。
「……ほんと、油断ならない人だわ」
メイヤは小さく息を吐き、次の書類を引き寄せた。
波は、もう陸に届いている。




