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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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2/8

情報がない? じゃあ聞くしかないでしょ!

階段から落ちて三日目。

ようやく起き上がれるようになった私は、ベッドの上で腕を組んでいた。


(……この世界のこと、全然知らないわね、私)


思い返せば、メイアとしての六年間なんて――


・領主館の庭で遊んだ記憶

・姉リディアとケンカした記憶

・ミュネの手伝いをして怒られた記憶

・父に抱っこされて昼寝した記憶


……うん。可愛いけど役に立たない。


外の世界なんて、ほとんど知らない。

領地の地理も、他領地との関係も、王都がどれほど遠いのかも。

おまけにこの体は六歳。幼女らしく甘えられるけど、情報は集めにくい。


(八十九年も生きたのに、こんな初歩からなんて……)


ため息をついた時、扉がノックされた。


「メイア様、失礼しますよ」


低く穏やかな声。犬族の執事ガルドだ。


「ガルド! ちょうどいいところに!」


「お、お嬢様? その勢いは体に差し障りますよ……!」


「いいの、ちょっと教えてほしいことがあるの!」


私は身を乗り出してガルドの袖を引っ張った。


「この領地って、王都までどれくらいかかるの?」


「王都までは……荷馬車で三週間ほどでしょうか。ガリオン領を通れば最短ですが、通行税が高く……」


(やっぱり“三週間”は長いわね……物流は悪いし情報も遅い)


「じゃあ、エドラン領は?」


「そちらは遠回りでして、道も険しいのです。ただ、領主様は温厚なお方と聞き及んでおります」


ガルドは丁寧に答えてくれた。

さすが執事、情報が正確で助かる。


「ロウル領は?」


「南にありますが……ほぼ道がございません。湿地が多く、人の出入りもほとんどないかと」


(ほう、なるほど……地理はこんな感じか)


気づけば私は、前世の癖で頭の中に地図を描いていた。


北:通行税が高い ガリオン領

東:遠いけど安全 エドラン領

南:道なし ロウル領

西:海


(物流が弱い……これは改善のしがいがある)


ひとりで頷いていると、ガルドが首をかしげる。


「メイア様……大丈夫で?」


「だ、大丈夫よ! 次はね……領地の特産品って何?」


「特産品……でございますか? 魚と、穀物が少々。海は近いのですが、港が小さいもので……」


(海があるのに漁業が弱いの? もったいない!)


メモこそ取れないが、頭の中に情報がどんどん積み上がる。


そこへ、扉が半分開き、猫族メイドのミュネが顔をのぞかせた。


「メイア様、起き上がって大丈夫なんですか? ……って、またガルドさんを質問攻めにしてる!」


「ミュネも教えて! この家って、どれくらいの人が働いてるの?」


「えっ、わ、私にですか!? そ、それは……十数名ですよ。メイドが八人、厨房に三人、庭師が二人……」


「ふむふむ……」


「ふむふむって……六歳児の顔じゃありませんよ、それ……!」


ミュネにじとっと見られる。


(ごめんなさい……中身八十九歳なのよ)


「ミュネ。フェルナード領って、商人さんはよく来るの?」


「最近は減ってますねぇ。ガリオン領の通行税が上がりましたし、海路も整ってないので……」


(やっぱり! そうなると思った!)


もう私は興奮を抑えきれなかった。


「ありがとう二人とも! だいたい分かったわ!」


「……メイア様、本当に何を調べているのです?」


「ひ・み・つ!」


二人が顔を見合わせる。

どうやら完全に“ちょっと変わった子供”だと思われたらしい。


でもいいの。

私はこの世界で、もう一度人生をやり直すのだ。


そして――

六歳児の情報網は狭いってことがよーく分かった。


(でも、大丈夫。聞けばいいのよ。私は六歳なんだから!)


その日、異世界の“再スタート”を切った私は、

まず“聞き込み屋のメイア”として歩み始めたのだった。

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