潮騒のあと賑やかな火種
「そう言えば、アステリアちゃん」
食卓の空気が少し落ち着いた頃、母――セリアが、まるで世間話の延長のように口を開いた。
「縁談とか?彼氏は?」
――ぶっ。
一瞬で、アステリアが吹き出した。
「ちょっ……!い、いきなり何を……!」
「いやまだそんなものは……」
「ほら見なさい」
セリアは楽しそうに頬杖をつく。
「アステリアちゃん、昔からそういうの奥手なんだから。見た目も器量もいいのに。理想が高すぎるの?」
「げほっ……げほげほっ……!」
むせるアステリアをよそに、周囲の男性陣は内心で思う。
……あの“降参”宣言、強がりだったのか?
だが、セリアは気にしない。
「まあまあ、そのうちよ。そのうち」
場を収めるように軽く手を振る。
その時――
アステリアが、ぐっと姿勢を正した。
「姉御!」
「なに?」
「ここでダラダラする気はねぇ!」
一気に空気が変わる。
「私はな、あのメイヤって子の“働き”を見せてもらいたいんだ」
一同が一瞬、静まった。
「……あの子?」
セリアは少し考え、それから笑う。
「いいんじゃない?」
「ダメに決まってるだろう!」
即座に反応したのは、近衛隊長だった。
「いや、なんでよ?」
セリアが眉を上げる。
「私が許可したわ。メイヤにも、あなたから直接言っていいわよ?」
「おっしゃ!」
アステリアは拳を握った。
「さすが姉御!話が早ぇ!」
「……」
周囲の隊長たちは、同時に嫌な予感を覚える。
「つまり?」
機構隊長が慎重に確認する。
「優秀そうだからって、実地で見たいってわけだな?」
「そういうこと!」
アステリアは豪快に笑った。
「それにさ、姉ちゃんの方――リディアだっけ?」
「……何だ」
少し離れた場所で、リディアがじとっと睨む。
「ありゃ中々強そうだ」
「後で勝負、挑んでやる!」
その一言に、場がざわつく。
「え?」
「勝負?」
「え、今それ言う?」
だが、セリアは涼しい顔だった。
「いいんじゃない?」
「たまには、ね」
「……母上?」
リディアが抗議しかけるが、セリアは軽く手を振る。
「若い子同士、体を動かすのも大事よ」
それ絶対、穏便に終わらないやつだ……
近衛隊長と機構隊長は、無言で目を合わせた。
一方その頃――
「……また、何か面倒なことが始まった気がする」
書類の山に埋もれながら、メイヤは小さくくしゃみをした。
本人の知らぬところで、新たな“火種”が、着々と準備されているとも知らずに。
潮騒の向こうで始まった騒動は、どうやら――しばらく収まりそうに、なかった。




