仮同盟という名の居候宣言
「……そうだったの?」
母の声は、いつものお茶請けを勧める時と同じくらい、のんびりしていた。
「はい。卒業と同時に、ロウル領主の養女になりました」
アステリアは胸を張って答える。
「当時のロウル領主に、実子がいなくてですね」
「まあ……まさか、こんな近くに居たなんて」
「本当に。縁って分からないものですねぇ」
穏やかな雑談のような空気の中、ただ一人、額に青筋を浮かべている人物がいた。
「………………」
「……領主様?」
近衛隊長が小声で呼びかける。
「何です?この場は……?」
捕虜。
上陸交渉。
火縄と謎の臭い。
そこから一転して、お茶会。
理解が追いつかないのも無理はなかった。
領主は深く息を吸い、吐いた。
「……でだ。ロウル領主として、どうするつもりだ?」
アステリアは一瞬も迷わず答えた。
「フェルナード家に、くだります!」
「簡単に言うな!!」
思わず机を叩く領主。
「さっきも言った通り、降伏しましたし?」
「いや、そういう問題じゃない!」
「……まあ、確かに戦いは起きていませんしねぇ」
そこで領主は、助けを求めるように視線を向けた。
「近衛隊長。客観的な意見を頼む」
「えー……」
近衛隊長は咳払いを一つ。
「確かに、彼女は“降伏”と言っていますが、実際には戦闘は発生していません。お互い王国派でもありますし、ここで“下った”という形にすると、どさくさに紛れてフェルナード領が戦を仕掛けたように取られる恐れもあります」
「……続けろ」
「ですので、反乱が鎮まるまでの“協力関係”。仮同盟、という形が妥当かと」
沈黙。
数秒後。
「……よし。それでいく」
領主は即断した。
「いいな?」
「いいですけど!」
アステリアが手を挙げる。
「条件があります!」
「条件?」
「しばらく、ここに居させてください!」
「はぁ!?」
「領主の仕事なら問題ありません。私がいなくても回る仕組み、ちゃんと作ってますし」
「…………」
言葉を失う領主の横で、母が感心したように頷いた。
「流石ねぇ、アステリアちゃん。そういう所、昔から上手だったわよ?」
「でしょ?」
アステリアはにっこり笑う。
「任せてくださいよ、姉御!」
「誰が姉御だ」
領主は頭を抱えた。
こうして――
南ロウル領との関係は、
・敵対せず
・降伏でもなく
・同盟とも言い切れず
なぜか「居候つき仮同盟」という、前例のない形で落ち着くことになった。
……どうして、こうなる?
領主は天井を見上げ、静かに思った。
今日もまた、この屋敷は――
想定外で満ちている。




