静かな余韻と甘い捕虜
「……メイヤ。あれを、出したのか?」
帰り道、父が低い声でそう聞いた。
「ええ。お父様、鍵はいつもの所に置いておいてください」
「鍵? ……あっ!」
父はそこでようやく察したらしく、こめかみを押さえた。
「正直、かなり焦りましたからね。切り札がしまってある鍵が見当たらなくて。学術員さんが試験用に持ってた分を、慌てて取りに走ったんです」
「……じゃあ、あの臭いは」
「臭いだけです。使ってません。まったく……鍵は使ったら元に戻すって、いつも言ってるのに」
ぶつぶつと小言を漏らす私に、近衛隊長が呆れた顔を向ける。
「……お嬢ちゃんは、一体何者なんだ」
「謎が深まったな」
「深めてないで、もう少し普通にしてほしいわ……」
機構隊長が疲れ切った声でそう言うと、誰ともなくため息が漏れた。
「けっ」
短く吐き捨てる。
「で?一件落着、でいいのか?」
「さあ……もう、正直よく分からない」
「俺はもう戻って寝たい」
「同感」
その場の空気が、ようやく緩む。
「……サイレント・フレイム、か」
誰かがぽつりと呟いた言葉に、私は知らんぷりをした。
「はー……なんか、どっと疲れた」
領主は手を叩いた。
「リディア隊、全員解散!アステリアさんは、こちらへ。両隊長も来てください」
――そして屋敷。
「まあ!みなさん、お帰りなさい」
呑気な声で迎えたのは、母だった。
「……母上」
「おや?その子は?」
「捕虜です」
「いやー、色々あって捕虜になりました!」
明るく言い切るアステリアに、全員が一瞬固まる。
「……え?姉御?」
母は首を傾げたあと、ぱっと表情を明るくした。
「あら?アステリアちゃん?」
「はい!」
「お久しぶりね!二学年下だったかしら?」
「ですです!今は捕虜やってます!」
「まあ大変。でも大丈夫よ、元気なら」
そう言って、母はにこやかに手を叩いた。
「お茶にしましょう?ちょうど新しいデザートができたのよ」
「領主様!!」
両隊長が同時に叫ぶ。
父は天井を仰いだ。
「……何も言うな。何も俺に聞くな」
こうして、緊張と火薬の匂いに満ちていた一日は――
なぜか、甘い香りとともに幕を下ろすのだった。




