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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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静かな余韻と甘い捕虜

「……メイヤ。あれを、出したのか?」


帰り道、父が低い声でそう聞いた。


「ええ。お父様、鍵はいつもの所に置いておいてください」


「鍵? ……あっ!」


父はそこでようやく察したらしく、こめかみを押さえた。


「正直、かなり焦りましたからね。切り札がしまってある鍵が見当たらなくて。学術員さんが試験用に持ってた分を、慌てて取りに走ったんです」


「……じゃあ、あの臭いは」


「臭いだけです。使ってません。まったく……鍵は使ったら元に戻すって、いつも言ってるのに」


ぶつぶつと小言を漏らす私に、近衛隊長が呆れた顔を向ける。


「……お嬢ちゃんは、一体何者なんだ」


「謎が深まったな」


「深めてないで、もう少し普通にしてほしいわ……」


機構隊長が疲れ切った声でそう言うと、誰ともなくため息が漏れた。


「けっ」


短く吐き捨てる。


「で?一件落着、でいいのか?」


「さあ……もう、正直よく分からない」


「俺はもう戻って寝たい」


「同感」


その場の空気が、ようやく緩む。


「……サイレント・フレイム、か」


誰かがぽつりと呟いた言葉に、私は知らんぷりをした。


「はー……なんか、どっと疲れた」


領主は手を叩いた。


「リディア隊、全員解散!アステリアさんは、こちらへ。両隊長も来てください」


――そして屋敷。


「まあ!みなさん、お帰りなさい」


呑気な声で迎えたのは、母だった。


「……母上」


「おや?その子は?」


「捕虜です」


「いやー、色々あって捕虜になりました!」


明るく言い切るアステリアに、全員が一瞬固まる。


「……え?姉御?」


母は首を傾げたあと、ぱっと表情を明るくした。


「あら?アステリアちゃん?」


「はい!」


「お久しぶりね!二学年下だったかしら?」


「ですです!今は捕虜やってます!」


「まあ大変。でも大丈夫よ、元気なら」


そう言って、母はにこやかに手を叩いた。


「お茶にしましょう?ちょうど新しいデザートができたのよ」


「領主様!!」


両隊長が同時に叫ぶ。


父は天井を仰いだ。


「……何も言うな。何も俺に聞くな」


こうして、緊張と火薬の匂いに満ちていた一日は――


なぜか、甘い香りとともに幕を下ろすのだった。

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