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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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降参宣言と海の誇り

「……貴女、それでも海賊がルーツって本当なの?」


潮の音の中で、メイヤの声だけが、妙に澄んで響いた。


「私の知ってる海賊はね。暴れん坊で、悪いこともするけど――自由に海を渡り歩いて、スジと義理はちゃんと通す連中よ?」


一歩、砂浜を踏みしめる。


「なのに、貴女はどう?中立だ、貴族だ、王国だって……何に、そんなに縛られてるの?」


アステリアは、言葉を失った。


反論しようとして、口を開きかけて――閉じる。

胸の奥に、波のような何かが押し寄せてくる。


……縛られて、いる?


王国。中立。領主としての責任。

海賊の血を引く女が、いつの間にか“選ばないこと”を選び続けていた現実。


そして次の瞬間。


「……確かに……」


ぽつり、と漏れた声の直後。


どさっ。


アステリアは、突然――砂浜に大の字になった。


「「「は?」」」


その場にいた全員が、見事に同じ反応をした。


空を仰ぎ、潮風を全身で受けながら、アステリアは叫ぶ。


「降参だ!!」


近衛も学生隊も、領主も、完全に固まる。


「王都で会った領主!味見したけりゃ味見しろ!!降参だ!!」


「……は?」


「隣のイケメンでもいいぞ!それとも疲れ切ったそっちの奴でも!」


砂浜に寝転んだまま、腕をぶんぶん振る。


「奥に控えてる連中でもいい!初めての味、くれてやる!!」


沈黙。


風。


波。


そして――


「……あー……」


額に手を当てた領主が、深く息を吐いた。


「取り敢えず、身柄を拘束する」


即断だった。


「護衛の二人は船に戻れ。事情を説明しろ」


「残りの者は、こちらに同行してもらう」


近衛隊長が続ける。


「武装は――戻る二人に預けろ」


護衛たちは一瞬迷ったが、アステリアは片手をひらひら振った。


「行け行け。今は従っとけ」


砂浜に寝たまま、妙に晴れやかな声だった。


その瞬間。


「「「メイヤ!!」」」


父、近衛隊長、機構隊長、リディア、学生隊。全方向から非難と困惑とツッコミが飛ぶ。


「……何?」


メイヤは首を傾げる。


「私、何か変なことした?」


誰も即答できなかった。


ただ一つだけ、はっきりしている。


――中立の仮面は剥がれ、

――海の女領主は、自ら白旗を上げ、

――そしてまた一つ、面倒な爆弾が、男爵領に転がり込んだということだけは。


砂浜に寝転ぶアステリアは、空を見上げて笑った。


「……久しぶりだな。こんな、自由な負け方」


潮騒は変わらず、静かに続いていた。

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