降参宣言と海の誇り
「……貴女、それでも海賊がルーツって本当なの?」
潮の音の中で、メイヤの声だけが、妙に澄んで響いた。
「私の知ってる海賊はね。暴れん坊で、悪いこともするけど――自由に海を渡り歩いて、スジと義理はちゃんと通す連中よ?」
一歩、砂浜を踏みしめる。
「なのに、貴女はどう?中立だ、貴族だ、王国だって……何に、そんなに縛られてるの?」
アステリアは、言葉を失った。
反論しようとして、口を開きかけて――閉じる。
胸の奥に、波のような何かが押し寄せてくる。
……縛られて、いる?
王国。中立。領主としての責任。
海賊の血を引く女が、いつの間にか“選ばないこと”を選び続けていた現実。
そして次の瞬間。
「……確かに……」
ぽつり、と漏れた声の直後。
どさっ。
アステリアは、突然――砂浜に大の字になった。
「「「は?」」」
その場にいた全員が、見事に同じ反応をした。
空を仰ぎ、潮風を全身で受けながら、アステリアは叫ぶ。
「降参だ!!」
近衛も学生隊も、領主も、完全に固まる。
「王都で会った領主!味見したけりゃ味見しろ!!降参だ!!」
「……は?」
「隣のイケメンでもいいぞ!それとも疲れ切ったそっちの奴でも!」
砂浜に寝転んだまま、腕をぶんぶん振る。
「奥に控えてる連中でもいい!初めての味、くれてやる!!」
沈黙。
風。
波。
そして――
「……あー……」
額に手を当てた領主が、深く息を吐いた。
「取り敢えず、身柄を拘束する」
即断だった。
「護衛の二人は船に戻れ。事情を説明しろ」
「残りの者は、こちらに同行してもらう」
近衛隊長が続ける。
「武装は――戻る二人に預けろ」
護衛たちは一瞬迷ったが、アステリアは片手をひらひら振った。
「行け行け。今は従っとけ」
砂浜に寝たまま、妙に晴れやかな声だった。
その瞬間。
「「「メイヤ!!」」」
父、近衛隊長、機構隊長、リディア、学生隊。全方向から非難と困惑とツッコミが飛ぶ。
「……何?」
メイヤは首を傾げる。
「私、何か変なことした?」
誰も即答できなかった。
ただ一つだけ、はっきりしている。
――中立の仮面は剥がれ、
――海の女領主は、自ら白旗を上げ、
――そしてまた一つ、面倒な爆弾が、男爵領に転がり込んだということだけは。
砂浜に寝転ぶアステリアは、空を見上げて笑った。
「……久しぶりだな。こんな、自由な負け方」
潮騒は変わらず、静かに続いていた。




