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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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一息の裏側で歯車は回る

砂糖の管理も含めて、食品関連の仕事は全部お母様の管轄に移った。


つまり。


「私は、楽ができるはず!!」


机に突っ伏しながら、私は心の中で万歳をする。


書類は来る。でも判断はしない。回すだけ。

押印して、次へ。


「……これよ。これが私の理想」


開発だの実験だの、現場に顔を出すだの。

気がつけば、いつも最前線で手を動かしていたけれど。


本来、私は“考える側”でいいはずなのだ。

方向を示して、後は任せる。

それで世界が勝手に前に進むなら、こんなに楽な話はない。


「さて……」


私は椅子に深く腰掛け、天井を見上げる。


「今度は何を考えようかなー」


そう呟いた瞬間だった。


―――その“裏側”で、別の歯車が、静かに、しかし確実に回っていた。



機構隊長は、執務室の片隅で、一通の文書を読み終えたところだった。


差出人は――ガリオン領、機構部。


「……ふぅ」


短く息を吐き、机に肘をつく。


内容は、決して軽くない。


まず、ガリオン領内の状況。


反乱による混乱は、概ね収束。

治安は回復傾向。

エドラン領から直接、兵力の増援が行われ、既に進軍を開始している。


「まあ……想定通り、か」


彼は独り言のように呟く。


治安隊は、不正資金の捜索を本格化。

その過程で、高価な絵画、装飾品が複数発見されたとある。


だが――


「詳細不明、か」


換金ルートも、出所も、まだ掴めていない。

ただし、不正資金の総額は“かなりの金額”と推測される、と。


「まあ、そう簡単に尻尾は掴ませねぇよな……それに隠し資金は俺たちが……」


そもそも反乱を起こすだけの資金力。しかも王都を巻き込む規模だ。表に出るような金の流れであるはずがない。


次に、王都方面。


ガリオン領方面からの援軍を予測したかのような動きが見られる、との報告。


「……嗅覚が鋭いな」


伯爵独自の情報網があるのか。それとも、反乱側に潜り込ませた人間がいるのか。


いずれにせよ、王都の状況は芳しくない。


反乱軍は遊撃戦を展開。正面からの決戦を避け、補給線や要所を狙った破壊工作を繰り返している。


決定打を打てず、戦線は膠着。


さらに――


王都内部にも反乱勢力が潜伏し、破壊工作を行っている模様。


「内と外、両方から削られてる……か」


機構隊長は、報告書を机に置き、背もたれに体を預けた。


「この男爵領にも……」


思わず、そんな考えが頭をよぎる。


「もう少し、大規模な兵力がありゃなぁ……」


王都に援軍を出せれば、確実に“恩”を売れる。戦後の発言力も、立場も、段違いだ。


だが、現実は厳しい。


今この領は、急激に膨らみすぎている。

産業、技術、人口、物流――

どれもが加速度的に伸びている分、守りが追いついていない。


「欲張るには、まだ早いか……」


機構隊長は、文書を畳み、静かに立ち上がった。


「……領主様に報告だな」


この情報は、隠すべきではない。

判断は、上に任せるべきだ。


彼は、執務室を出る前に、ふと足を止めた。


「しかし……」


頭に浮かぶのは、あの小さな背中。


メイヤ。


本人は「楽をする」と言っているが。

その実、この領で起きている変化の“起点”は、ほぼ全て、彼女だ。


彼女が直接手を出さなくなっても。

示した道筋と、残した仕組みが、勝手に噛み合い始めている。


蒸気機関。鉄道。砂糖。農業。物流。規格と基準。


――歯車は、もう止まらない。


「……厄介だよ、本当に」


苦笑しながらも、どこか誇らしげに、機構隊長は呟いた。


静かに、しかし確実に。


この領は、戦の外側で、

世界の形を変え始めている。


そしてその中心で。


「書類を回すだけで楽できるはずよ!」


などと、本気で思っている少女がいることを――


彼はまだこの事を本人には言わないでおくことにした。

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