エルフ教師の実力判定試験
家庭教師となったエルフ――セレステが領主館へ来て数日後。
私とリディア姉さんは、執務室横の書庫に呼び出された。
「それでは、お二人の実力を拝見させていただきますわ」
試験用紙が机に広げられる。
読み書き、計算、歴史。
そして実技として剣技と弓術。
私は思わず息を飲む。
「メイヤ、緊張……してる?」
「めっちゃしてるよ!!」
セレステはにっこり微笑む。
「大丈夫。落ちても怒りませんから」
(怒らないけど……落ちたら恥ずかしいっ!!)
こうして、私とリディア姉さんの“実力判定”が始まった。
◇◆◇
◆ メイヤの実力
読み書きも計算も問題なし。
試験内容は小学生レベルなので、むしろ前世の知識が強すぎるほど。
(ありがとうローマ字……! この世界の文字がローマ字で本当によかった……!)
しかし――
歴史は壊滅的だった。
(いや無理!! 初代“大統領王”とか、何それ!? 前世の世界史にも出てこなかったよ!!)
そして実技――
「そ、それは刃をそっちに向けては危険でございますメイヤ様ーっ!!」
「ひゃああああ!!」
剣は重い、怖い、振れない。
弓は弦を引く腕がぷるぷる震える。
総評:実技ゼロ点。運動音痴の極みだって6歳児!
◆ リディア姉さんの実力
学科は中の上。
苦手はあるが努力すれば十分伸びる。
そして実技――
ヒュンッ!
矢は美しい軌道を描き、ドンッと的の中心へ。
「……つ、強っ!!」
セレステも目を細めて頷く。
「リディアさん、あなた実技だけなら“学園合格ライン”どころか、上位クラスでも通用しますわ」
「え……そ、そんなに?!」
剣も鋭く、姿勢も完璧。
どう見ても貴族の娘じゃなくて訓練兵の動きだ。
◇◆◇
全ての試験結果をまとめたセレステは、優雅に言った。
「お二人とも、とても分かりやすい傾向ですわね」
「ど、どうでした……?」
「メイヤ様は学科特化。歴史と実技を補強すれば、一発卒業は可能ですわ。リディア様は逆に実技が優秀なので、学科を底上げすれば間違いなく合格できます」
二人で顔を見合わせて……ホッ。
だけど――この結果を聞いた父は、逆に不安になったらしく、セレステを執務室へ呼び出した。
◇◆◇
夕方。
父の執務室にはセレステと、隣に執事ガルド。
セレステはガルドを見るなり――
「まぁぁ〜ガルドじゃない。老けたわねぇ……昔はあんなに可愛い子犬だったのに」
「こ、子犬……!? セレステ様、言いすぎで……!」
父は苦笑しつつも咳払いし、本題へ。
「それで……娘たちは本当に“半年以内に”卒業レベルに届くのか?」
セレステは余裕の笑みで頷いた。
「心配いりませんわ。二人とも数ヶ月で“一発卒業”可能です。ほぼ確実に。」
父とガルドは息を呑んだ。
「ほ、ほんとうに……?」
「ええ。ただし万全を期すため、試験科目の選定、実技の種類をわたくしが調整いたします。お二人の適性を見極めて、最短ルートで合格させますわ」
この自信。
まるで“全てが見えている”者のような目だった。
父が安心しかけた、そのとき。
セレステは声を潜めて言った。
「そして……できれば――二人とも学園へ来ていただきたいのです」
「……は?」
「もちろん、嫌がるリディア様の気持ちは理解しています。でも――」
セレステは椅子に背を預け、ため息をつく。
「学園は今、酷い状態です。腐敗、派閥争い、裏口、賄賂。貴族の子が“友だち作り”だけして卒業していく。本来の教育の場としては壊れきっています」
父とガルドは顔を青ざめさせた。
「そ、そこまで……?」
セレステは真剣な目で二人を見る。
「だからこそ。わたくしは二人に、“良い意味でも悪い意味でも、学園を壊してほしい”のです」
「壊す……?」
「常識でも。才能でも。結果でも。存在でも。
あの学園を揺さぶる子が必要なの」
そして――
セレステは衝撃の事実を告げた。
「――わたくし、現在の“学園長”ですの」
父「……は?」
ガルド「……は?」
セレステは指を口元に添え、微笑んだ。
「教える側であり、学園を治す責任がある側。
でも……わたくし一人では限界がありますの。だから――二人の力が欲しい」
そう言って立ち上がり、静かに頭を下げた。
「どうか……この学園を、助けていただけませんか?」
父は、メイヤとリディアの未来だけでなく――
学園の未来までも背負ってしまったことを悟った。
こうして、私たちの知らぬ所での“学園攻略作戦”は本気で動き始めたのだった。




