芽吹きと轟音
「……アブアブの実と、テンテン菜の様子を見に行くか」
書類と炉と線路の話に追われて、すっかり後回しになっていた。
忙しさにかまけて放置、なんてことになっていなければいいけれど。
畑に近づくと、先に声を掛けられた。
「メイヤさん!だいぶ育ちましたよ!」
振り向くと、同級生の子たちが数人、観察用の板を抱えて立っていた。
「あ、見ていてくれたんだ!」
「はい!みんなで種を蒔いたじゃないですか!」
そうだった。
これは“私の研究”じゃなくて、“みんなの畑”だ。
「どう?元気に育ってる?」
「ええ、かなり!」
アブアブの実は、葉に張りがあって色も濃い。
テンテン菜――見た目はカブに近いそれも、地面を割るように太り始めている。
「確かに……元気そうね」
「観察日記も、みんなでつけてますから!」
胸を張って言われて、思わず笑ってしまった。
「ありがとう。本当に助かるわ」
「リディアさんが言ったんですよ。“メイヤのことだから、また書類と睨めっこしてるだろうから”って」
「あはは……よく分かってるわね」
でも、その“誰かが代わりに回してくれる”感覚が、少し嬉しかった。
「じゃあ、私は次の確認に行ってくるね」
手を振って畑を離れる。
――次は、あそこだ。
鍛冶場の近くまで来たところで、違和感に足が止まった。
「……何これ?」
地面が抉れ、壁の一部が煤けている。
まるで、小規模な爆破跡。
「おう!メイヤちゃん!」
中から、タルトさんの元気な声。
「この跡は何ですか……?」
「例の“蒸し焼き”だよ」
あっけらかんとした返事に、思わず目を瞬かせる。
「最初はな、炭作りと同じように土で囲ってやったんだが、ダメでよ。次は石積み。次はコンクリ――ってやつだな」
「……で?」
タルトさんが、にやりと笑った。
「ククク……紫石より、いい燃料だ」
来た。
「鉄がな、短時間で行ける。それに――」
彼は鍛冶場の奥を指差した。
「ここに小型の蒸気機関を付けて、空気を大量に送れるようにもした」
炉の火は、今までより一段、違う“勢い”を持っている。
「いいわね。その調子よ」
「レールと留金も、これからは大量にいけるぞ」
タルトさんは楽しそうに笑った。
「ふふふ……忙しくなるなぁ」
私は頷いた。
「よろしくね。これからが本番だから」
畑では芽が伸び、鍛冶場では火が変わった。
誰かが指示しなくても、誰かが全部を把握していなくても。
世界は、ちゃんと前に進いている。
……うん。
私は小さく息を吐いた。
これはもう、“一人の知識”じゃない。
みんなの手で、みんなの速度で、噛み合い始めた現実だ。
そしてその音は――
もう、止められないほど、大きくなり始めていた。




