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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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数字が示す現実

「隊長ーーーー!!」


「うわっ!?」


機構隊長は、思わず椅子から身を引いた。


「……パナーか。なんだよ、またかよ」


「“またかよ”じゃないですよ!遠目からコソコソ覗いてないで、ちゃんと確認してください!」


「だってよぉ……」


「だってじゃありません!」


パナーは、ずいっと一歩踏み込み、隊長の机の上に紙束を叩きつけた。


「ほら!これです!」


「……蒸気機関車の報告書?」


「私が要点だけ抜き出してまとめました!」


隊長は眉をひそめながら紙を手に取る。


「もう走り出したのか?」


「はい」


「……速度?」


紙の一文を指でなぞる。


「直線で四十五キロ……?」


「そこです!」


「いや、待て待て。そもそも“キロ”って何だ」


「単位の話は置いておいてください!」


パナーは机をバン、と叩いた。


「要するに“速さ”です!蒸気機関車の!」


「いやいや、俺も見たぞ?この前」


隊長は首を傾げる。


「正直、ノロノロだった。荷馬車と同じくらいだろ?あれなら便利だな、くらいの――」


「――あっほ!!!!」


「はぁ!?」


「この、ばっかちんが!!」


「おい!?上官に向かって何その言葉!?」


「今はそれどころじゃありません!!」


パナーは息を吸い、早口で畳みかけた。


「いいですか!?強化型荷馬車が、目一杯積んで走っても、せいぜい時速四、五キロです!」


「……そんなもんか?」


「馬が全力で走って、ようやく十数キロ!」


「ふむ……」


「それに対して!」


パナーは報告書を指差す。


「蒸気機関車は!貨車一両で!強化型荷馬車の一・二倍近く積んで!直線で四十五キロです!!」


「……は?」


「しかも三両!!」


沈黙。


「……旧型の倍はいかねーが。。」


「やっと分かりましたか、このヤロー!!」


「お、おい落ち着け……」


隊長は額に手を当てた。


「ぐるしい……首を絞めるな!情報量が……どうどう」


「どうどう!じゃありません!」


パナーは深呼吸して、少し声を落とす。


「しかも、ですよ?」


「まだあるのか……」


「この速度計の件。メイヤ様は関わってません」


「……は?」


「学術員とタルトさんが、車軸の回転数から速度を数値化したそうです」


隊長は報告書を読み直す。


「……運用方法まで書いてあるな」


「はい。カーブ角度ごとの制限速度、積載量ごとの注意点、減速区間の設定……」


「……軍の教範か、これは」


「ですよね」


隊長は、しばらく黙り込んだ。


「……紫石で燃料が減って、重量も軽くなってる、か」


「そうです」


「つまり、まだ伸びる余地がある……」


「はい」


また、長いため息。


「……なぁ、パナー」


「何ですか」


「これ、本当に“生活向上のため”なんだよな?」


「……メイヤ様は、そう考えてます」


「結果として、戦争が変わる速度だぞ」


「……それも、事実です」


沈黙。


「それで、お前はここに来て平気なのか?」


「今ですか?」


「今だ」


「メイヤ様が書類を見てらっしゃるので、“お茶でも飲みに行きなさいって”と言われまして」


「……余裕だな」


「はい」


パナーは、少し困ったように笑った。


「多分、分かってないんです。どれだけ世界を揺らしてるか」


「……いや」


隊長は、報告書を閉じた。


「分かってないんじゃない」


「?」


「分かった上で、“先に必要なこと”をやってるだけだ」


机に書類を置き、天井を見上げる。


「数字にした瞬間、現実になる」


「……はい」


「で、その現実が、想像よりずっと速かった」


隊長は苦笑した。


「こりゃあ……王都が動く前とかじゃなくて、世界が追いつかねぇな」


パナーは、そっと頷いた。


その時、二人はまだ知らなかった。


――この「四十五」という数字が、後に“境界線”として語られることになるのを。


そして、蒸気機関車がただの輸送手段では終わらないことを。

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