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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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数字になった世界

今日は久しぶりに、腰を据えて書類に目を通すことにした。


「さて……」


机の上に積まれているのは、いつものように分厚い束――

だけど、以前ほど気が重くならないのは、間違いなくパナーさんのお陰だ。

分類、要約、重要点の抜き出し。どれも的確で、無駄がない。


「これなら……すぐ終わりそうね」


そう呟きながら、一番上の書類を手に取る。


――蒸気機関車・試験走行結果報告書。


「ふむふむ……」


まず目に入ったのは、走行速度の項目だった。


直線区間、貨車連結・積載状態で――

最高速度:時速45キロ


「……速っ」


思わず声が漏れる。

この世界の感覚で言えば、馬を全力で走らせてもなかなか出ない速度だ。それを、鉄の塊が一定速度で維持している。


さらに読み進める。


カーブ区間。

現在の試験線路の曲率では――

安全走行速度:時速25キロ


「なるほど……」


ここまでは想定内。だが、次の項目で、私は思わず書類を二度見した。


――速度計の開発に成功。


「……え?」


ページをめくる。


車軸の回転数を基準に、一定距離あたりの回転回数を数値化。

学術員との共同研究により、視認可能な表示機構を試作。

運転手が一目で速度を把握可能。


「……いつの間に?」


完全に不意打ちだった。


あ、そうか……


蒸気機関車を作った時点で、

「速い」「遅い」を感覚で判断する段階は、もう終わっていたのだ。


速度が“数字”になった瞬間、世界は変わる。


「……これ、凄いわよ」


誰が見ても同じ数値。

経験や勘に頼らず、誰でも判断できる。


私は自然と、口元が緩んでいた。


さらに読み進める。


――運用上の注意点。


直線区間は、可能な限り長く、緩やかに。

カーブが発生する場合、曲率に応じた制限速度を設定する必要あり。


・カーブ角度〇度:制限速度〇キロ以下

・カーブ角度△度:制限速度△キロ以下


「……ここまで?」


単なる試験結果の報告ではない。

どう使うか、どうすれば安全に運用できるか――そこまで書かれている。


「すご……」


思わず感心してしまう。


誰か一人の思いつきじゃない。

現場、学術員、運用側――みんなで考えた跡が、行間から伝わってくる。


ページをめくる。


――燃料に関する追記。


紫炭の使用により、同出力での燃料搭載量を削減可能。

結果として、機関車重量の軽減に成功。

加速性能および制動距離の短縮を確認。


「うん……まあ、そうなるわよね」


火力が上がれば、燃料は減らせる。

重量が減れば、全体の性能も上がる。


理屈としては単純。でも、それを“実証”したことに意味がある。


書類を閉じて、私は椅子にもたれた。


「……いつの間に、ここまで来たのかしら」


最初は、「動けばいい」「走ればいい」


それだけだった。


でも今は違う。


速度を測り、安全域を決め、運用ルールを作り、誰が使っても同じ結果が出るようにする。


「……文明、進んでるわね」


思わず小さく笑ってしまう。


私は“きっかけ”を出しただけ。

その先を、ここまで形にしたのは、現場の人達だ。


「……よし」


書類の山は、まだ残っている。

でも、もう気が重くなることはなかった。


この領地は、もう私一人で回っている場所じゃない。


数字になった世界は、ちゃんと、みんなの手に渡り始めている。


――そんな手応えを感じながら、私は次の書類を手に取った。

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