確信と手探りのあいだ
これで、薪から石炭――いや、この世界では紫石と呼ぶべきか――への移行は、ほぼ目処が立った。
火力は十分。
扱いは難しいが、慣れれば問題ない。
蒸気機関車も、鍛冶場の炉も、明らかに“次の段階”に進める。
私は鍛冶場の中で、紫石が赤く輝く炉を眺めながら、ひとつ深呼吸した。
「……よし」
感慨に浸っているタルトさんに声を掛ける。
「タルトさん、感動しているところ悪いんだけど」
「おう? どうしたメイヤちゃん」
「どこかのタイミングでね、この石――紫石を、蒸し焼きにしてみてほしいの」
タルトさんは、一瞬きょとんとした顔をした。
「……蒸し焼き?」
「うん。炭を作る時みたいに、空気を遮ってじっくり焼く感じ」
「ほう……これを、か」
紫石を手に取り、しげしげと眺める。
「そうすると、たぶんだけど……さらに火力の強い“別の燃料”になると思う」
「ほおお……」
タルトさんは顎を撫でながら、少し考え込み、それから豪快に笑った。
「面白ぇじゃねぇか!」
「これを蒸し焼きにして、さらに火力アップか。炭の仲間みたいなもんだな?」
「……たぶん、そんな感じ」
正直に言えば、私も細かい工程までは自信がない。知識としては知っている。
結果も、きっとこうなるだろうと想像できる。
でも――この世界で、実際に“どうなるか”は、やってみなければ分からない。
「私も詳しくは分からないの。だから、試してみて」
そう言うと、タルトさんは力強く頷いた。
「おう! 任された!!」
その背中は、完全に“職人の顔”だった。
パナーは思っていた。やっぱり、そうなるよね。。。ここで止める理由はない。むしろ、ここまで来て試さない方が不自然だ。それに。結果を知っている私だから言える。
メイヤ様は「たぶん」「恐らく」と、随分曖昧な言い方をしている。結果を知っているなら、いつもみたいに断言するはず?でも、そうしなかった。
メイヤ様も手探り、なのか?
知識はある。方向性も見えている。でも、実物を再現するとなると、微妙な差異が必ず出るからか??だからこそ、「試す」をしてるのか??
その様子を、少し離れた場所から見ていた機構隊長が、額に手を当てていた。
「あーー……」
低く、長いため息。
「やっぱそうなるよな……」
隣にいた部下が、不安そうに尋ねる。
「隊長、何か問題でも?」
「問題しかねぇよ……」
隊長は紫石と、意気揚々と準備を始めたタルトさん、そして何事もない顔で立っている私を見比べた。
「メイヤ様の言い方がな……」
「言い方、ですか?」
「いつもなら、『できる』『なる』って言い切るんだ。あのお嬢ちゃんは」
「……今回は?」
「今回は『たぶん』『恐らく』『試してみて』だ」
隊長は頭を抱える。
「結果を知らねぇのか?いや、知ってる気もする……」
「でも、完全な確信じゃない??」
「そうだ。なのに方向性は、間違いなく“正解側”なんだ」
また一つ、ため息。
「知れば知るほど、分からなくなる」
彼は空を仰いだ。
「手探りで歩いてるのに、道だけは合ってる。しかも、誰よりも速く」
――それが、一番厄介だ。
隊長は心の中でそう呟いた。
一方その頃、私は炉の前で腕を組みながら、紫炭を見つめていた。
成功すれば、また一段、世界が進む。
失敗しても、データは残る。
どちらに転んでも、前進だ。
「……よし」
私は小さく頷いた。
この世界は、まだまだ伸び代だらけ。
そして私は、その伸び代の“入口”を、たまたま知っているだけ。
あとは――
みんなで、確かめていくだけだ。




