極秘が日常になる頃
「はぁ〜……」
機構隊長の溜息は、もう何度目か分からなくなっていた。
「そんなに溜息つくと禿げるぞ?」
気楽な声で近衛隊長が声を掛ける。
「そういう問題じゃねぇんだよ……」
「また、あのお嬢ちゃんか?」
「……ああ。まあ、お前さんになら見せてもいいか」
機構隊長は机の引き出しから一束の書類を引きずり出した。
「なっ!?何だこれは!?なんで極秘指定の内容をここまで具体的に……?」
近衛隊長の目が一瞬で鋭くなる。
「お前の所も同じく極秘だったか」
「当たり前だ。紫石の用途なんて、王都でも一部しか知らんぞ」
「だよな……」
機構隊長は頭を掻いた。
「だがな。あのお嬢ちゃんは“知ってる”んだよ。しかも、調べた形跡もなく、当たり前みたいにな」
「……意味が分からんな」
「俺もだ」
二人は同時に肩をすくめた。
「俺は何も見てないぞ?補給部隊の護衛で手一杯だ」
「そっちはどうだ?」
「補給路は平和だな。志願兵も増えてるし、軍隊式で教えながら回してる。時間はかかるが、練度は確実に上がるだろ」
「成る程な」
「それでも、一番組織的なのは学生隊だがな」
「……ああ」
機構隊長は苦笑する。
「リディア殿が、まあ……あれだからな」
「ククク……」
二人の笑いは短く、すぐに消えた。
「で、これが紫石か」
机の上に置かれた、黒に近い紫色の石。
「早速、タルトさんの所に持っていくそうだ」
「炭の代わりに、か?」
「そうだ。火力は確実に上がる。鉄を作る時も、まずはこれで試すそうだ」
「……本当に、世界が変わりそうだな」
「もう変わってるさ」
機構隊長は、遠くを見るように呟いた。
「ただ、その中心にいるのが――何も知らない顔で次の一手を打つ、あのお嬢ちゃんだってだけだ」
その頃。
「炭の代わりに、これを?」
紫石を受け取ったタルトは、目を輝かせた。
「そう。試験だ」
「面白ぇ!じゃあ、早速炉に入れてみるか!」
火が入る。
炎が、今までとは明らかに違う色と勢いを見せ始める。
誰もが気づいていた。
これは、ただの実験では終わらない、と。
そしてまた一つ――
“極秘”は、フェルナード領の日常へと引きずり込まれていくのだった。




