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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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芽吹く前触れ

パナーさんのお陰で、日々の仕事は目に見えて楽になった。


書類の整理、内容の要点まとめ、優先順位の振り分け。

今まで私が「なんとなく」で頭の中だけで処理していたものを、彼女は淡々と、しかも正確に形にしていく。


(……本当に優秀な人だわ)


こういう人が難民になってしまうという事実が、ガリオン領の混乱の深さを物語っている。

表向きは「鎮圧」と言われていても、実態はほぼ占領状態。

領内を正確に把握するには、まだ相当な時間がかかるだろう。


そんな事を考えていると、パナーさんが部屋に顔を出した。


「メイヤ様。ロウガ商会から、例の種が二種類届いたと連絡が入りました」


「じゃあ、取りに行くとする?」


「いえ。すでにこちらへ運ばせる手配をしました。もう間もなく届くかと」


一瞬言葉に詰まる。


「……解ったわ」


(流石ね)


こちらが動く前に、必要な段取りがすでに整っている。

秘書がいるというのは、こういう事なのだと実感した。


ほどなくして届いた木箱を開ける。


「これが……アブアブの実?」


思ったよりも種が大きい。

記憶にある菜種より、二回りほど大きいだろうか。

一方、テンテン菜の種は、ほぼ菜種と同程度の大きさだ。


「ふむ……」


見た目だけなら、期待は十分に持てる。


「さて、と」


事前にリディアお姉ちゃんには、畑仕事の手伝いをお願いしておいた。

種が来た以上、試さない理由はない。


畑に向かうと、そこには想像以上の光景が広がっていた。


「おー……」


畑はすでにきれいに耕され、筋も整えられている。


(……これ、私が思ってた以上に気合入ってるわね)


「お姉ちゃーん!」


視線を巡らせると、少し離れた場所にリディアの姿が見えた。


「いたいた――」


その瞬間。


「わっ!!」


「――っ!」


風を切る音。

反射的に体がこわばる。


「あっ!メイヤか!」


「お姉ちゃん!!」


思わず声が裏返った。


「いい加減、急にクロスボウ撃つのやめてよ!!」


「ごめんごめん!また何か嫌な感じがしてさ!」


「“何となく”で撃とうとしないで!」


まったくもう、と溜息をつく。


「へぇ……貴方が秘書さん?」


リディアが興味深そうにパナーさんを見る。


「パナーと申します。よろしくお願いいたします」


丁寧に頭を下げる姿を見て、リディアはにっこり笑った。


「皆で耕したのよ!さ、早く種まきしましょう!何の種?」


「まだ断言は出来ないんだけどね」


私は種袋を掲げる。


「上手く行けば……食生活が、かなり変わると思う」


「ほぉ〜?」


「これも、メイヤがよく言う“実験”ってやつか!」


「そう。二種類あるから、比べるのにも丁度いい」


「じゃあ、皆で撒きましょ!」


こうして、畑に種が撒かれていく。


土を被せ、軽く踏み固め、水をやる。

何度も繰り返されてきた、ごく当たり前の作業。


だけど――。


(芽が出るかどうかは、まだ解らない)


それでも、この小さな種が、いずれ領地の在り方を変えるかもしれない。

そう思うと、不思議と胸が高鳴った。


ふと、横を見る。


リディアは何気ない様子で畑の周囲に視線を走らせていた。


(……やっぱり、感がいい)


さっきの一瞬。

私も反射的に身構えかけたが、彼女の動きの方が早かった。あれは偶然ではない。


(そのうち、本当に厄介な戦士になるわね……)


芽吹くかどうかは、まだ先の話。

けれど確かに――

新しい何かが、ここで動き始めている気がした。

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