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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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堂々とした解決策

機構隊長の机の上には、またしても紙の山が築かれていた。


「……はぁ〜……」


深いため息が、静かな執務室に落ちる。


積み上げられているのは、密偵からの報告書の束だ。

いや、正確には「報告書になってしまった何か」と言った方がいい。


「蒸気がどうとか、石がどうとか、棒を中に入れて固めるとか……」


機構隊長は一枚を手に取り、眉を寄せる。


「本人が理解していない内容を、密偵が盗み聞きしても意味が分からん……そりゃそうだ」


密偵たちは優秀だ。だが、対象が悪すぎる。


本人が無意識に口にしている概念が、そもそもこの世界に存在しない。

それを言葉として拾い上げ、忠実に記録し、提出した結果が――この有様だ。


「本来なら、こんな量の報告は異常だが……」


紙の山を見下ろし、もう一度ため息。


「……こればかりは、どうしようもないな」


密偵も限界だ。そして何より、自分自身が限界に近い。


「このままじゃ、俺も、影の連中も潰れる……」


しばし黙考。


そして、ふと顔を上げた。


「……そうだ」


口元に、わずかな笑みが浮かぶ。


「堂々と行くか」



その日の昼下がり。


蒸気機関やら、レールやら、コンクリやらが混在する敷地の一角で、メイヤは書類を片手に考え込んでいた。


そこへ、聞き慣れた声が飛んでくる。


「おーい!お嬢ちゃんやー!」


「……ん?」


顔を上げると、そこにいたのは機構隊長と獣族の豹?の方。


「珍しいわね。隊長がこんな所に来るなんて」


「まあな。最近はお前さんが忙しそうだからな」


「そうね。色々とね」


メイヤは軽く肩をすくめる。


機構隊長は周囲を一瞥し、蒸気機関の試作機や作業員たちの様子を眺めてから、単刀直入に切り出した。


「でな。今日は提案がある」


「提案?」


「そうだ」


一歩近づき、声を少し落とす。


「お前さんに憧れて、ガリオン領からこっちに越して来た奴がいる」


「……へぇ」


「そいつがな。お前の秘書をしたいそうだ」


メイヤは一瞬、瞬きをした。


「秘書?」


「そう。身元は俺が保証する。調べもつけた」


「……歳は?」


「お前さんより少し上だな」


メイヤは顎に指を当て、少し考える。


調整役。

伝達役。

雑務、連絡、資料整理。


――確かに、今の状況では欲しい。


「難民さん?」


「ああ。仕事も探してる」


「なら、なおさら断る理由はないわね」


機構隊長を見る。


「隊長が身元保証してくれるなら、安心だし」


「だろ?」


メイヤは小さく笑って頷いた。


「よろしくね」


その言葉に応じて、一歩前に出た女性が深く頭を下げる。


「私の名前は、パナーと申します」


落ち着いた声。姿勢も良い。


「文字の読み書き、計算には自信があります。どうぞ、よろしくお願いします」


メイヤはにっこりと微笑んだ。


「パナーさんね。よろしく」


その様子を見て、機構隊長は内心で大きく安堵する。


(これでいい)


影に頼るだけでは、もう追いつかない。なので影を解き放った。堂々と近くに置く。


見せる所は見せ、隠す所は隠す。

そして、無意味な紙の山を減らす。


「……いやぁ」


機構隊長は背中を掻きながら、小さく呟いた。


「ようやく、まともな解決策を思いついた気がするな」


その横で、何も知らないメイヤは、新しい仲間にこれからの予定を説明し始めていた。


蒸気と鉄と石とそして人。


領地は、また一つ前に進もうとしていた。

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