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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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固さと脆さのあいだ

報告が来たのは、蒸気機関車の件が一段落した直後だった。


「メイヤ様、コンクリートの配合について進展がありました」


声の主は、例の土系学術員の代表格だ。

最近は報告のたびに“進展”という言葉がつくようになってきた。正直、それだけで胸が少し軽くなる。


「配合、解った?」


「はい。複数の比率を試した結果、安定して固まる配合を確認しました」


その言葉に、私は思わず拳を握る。


「それで?」


「メイヤ様が仰っていたU字溝と、その蓋を試作しました。完全に硬化するまでに二週間ほどかかりましたが、形状は問題ありません」


「よしよし……!」


つい、声が弾む。

これで温泉計画――“引く”という選択肢が、現実のものになった。


「いつでも出来るわね」


「はい」


少し間を置いて、その学術員が控えめに続けた。


「それと……一つ、思ったのですが」


「なに?」


「この素材、木枠さえあれば……建物にも使えますよね?」


一瞬、頭の中で想像が広がる。

型枠。壁。床。基礎。


「……理屈では、ね」


私は腕を組んだ。


「型枠と配合さえ安定すれば、どんな形でも作れる。丸でも四角でも……でも、それは“机上”の話」


「と、言いますと?」


「他に試作品、ある?」


学術員は少し慌てた様子で頷いた。


「小さいものですが、あります」


「じゃあ――それ、落としてみて」


「……へ?」


「いいから、落として」


半信半疑のまま、彼は小さな立方体状の試作品を持ち上げ、地面に落とした。


ばきっ――という乾いた音。


「……あ」


試作品は、見事に割れて、いくつかの破片になった。


「固いのに……」


学術員は呟く。


「そう。固いけど、脆い」


私はその破片を拾い上げながら言った。


「これじゃ建物には向かない。強度が足りないんじゃない。“粘り”が無いの」


「粘り……」


「例えば、砂だけじゃなくて砂利を混ぜるとか。あるいは――中に鉄の棒を入れるとかね」


一瞬、場が静まった。


「……なるほど」


学術員の目が、はっきりと変わる。


「割れにくくする、という発想ですね」


「そう。硬さだけじゃ駄目なの」


内心では、ほぼ答えを言っている自覚はある。でも、全部を教えるつもりはなかった。

私は“気付くきっかけ”を投げるだけでいい。


「また実験ね」


「はい!」


その返事は、迷いの無いものだった。



私は小さな試作品を手に、ロウガの元を訪ねていた。


「メイヤか。悪いな、まだ種は来てねぇぞ」


「今日は別件」


私は手の中のそれを差し出した。


「この前の“名も無い石”、覚えてる?」


「あー……エドラン領で土砂崩れの後に出たってやつか」


「それ」


ロウガは受け取り、首を傾げる。


「石……だよな?」


「それを焼いて、砕いて、水と混ぜた」


簡単に説明すると、ロウガの表情が徐々に変わっていく。


「……なるほどな」


彼は低く唸った。


「試験は成功。まだ改良の余地はあるけど、使い道は多い」


「……タダでもらった石に、そんな価値が出るとはな」


腕を組み、しばし考え込む。


「すぐに大量に要るのか?」


「今すぐじゃないわ」


「なら、少し時間をくれ。話を通しておく」


「助かる」


私は軽く頭を下げた。


名も無い石。捨てられるはずだった土砂。


それが、今や領地の未来を支える“材料”になろうとしている。


……ほんと、世界は面白い。


そう思いながら、私は次の実験のことを考え始めていた。

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