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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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鉄の道はまだ短く

蒸気機関車が完成した、という報告が上がってきたのは数日前のことだった。

正確に言えば「本体は完成したが、走らせる場所がない」という、なんとも歯がゆい状況だったのだけれど。


「レールが数十本完成しました」


そう報告を受けた瞬間、私は立ち上がっていた。


「じゃあ、見に行きましょうか」


こういうのは、報告書を読むより現物を見るに限る。


工房の外れ、仮設の保管場に並べられた鉄の棒――いや、鉄のH型の部材。

近くで見ると、一本一本が想像以上に重く、そして無骨だった。


「……うん。数は、まだ全然足りないわね」


正直な感想だった。


数十本。

直線を少し並べれば、それで終わりだ。蒸気機関車を本気で走らせるには、あまりにも短すぎる。


「テスト線路は、予定通りで行きます」


集まっていた学術員と作業長たちに向けて、私は説明を始めた。


「楕円形の周回路を一本。その内側に“八の字”を組み込みます」


紙に簡単な図を描く。


「外周は安定走行の確認用。内側は――」


私はペン先で交差部分を指した。


「急カーブ、直線、ポイント切り替え、交差。全部を一度に試せる構造です」


「なるほど……」


「これなら、問題点が一気に洗い出せますね」


頷きながら、学術員たちがメモを取っていく。


「今あるレールでは、どちらか一部しか作れません。だからまずは本数を増やす。その間に、路盤と枕木の試作を進めてください」


「了解しました」


鉄だけあっても意味はない。

下を支える土と木、その精度が走行の安定性を決める。


説明を終えた私は、奥の作業場へと足を運んだ。


――そこに、いた。


「……あれが」


小さな蒸気機関車。


思わず、足を止めて見入ってしまう。


想像していたよりも、ずっと露骨な造形だった。

丸い胴体に、むき出しの配管。煙突は短く、全体的にずんぐりしている。


「可愛い……」


口をついて出た感想に、周囲の職人たちが苦笑した。


「初号機ですからね。飾り気はありません」


「いいの。むしろ好きよ、この感じ」


機能優先。無駄を削ぎ落とした結果の姿だ。


人族基準なら、座席は二人で肩が触れるか触れないか。

獣族の大柄な体格なら、一人がちょうどいいだろう。


「本命は貨車ですしね」


私の言葉に、タルトさんが大きく頷く。


「そうだ。運ぶのは人より物だ」


強化型荷馬車で、輸送の重要性は嫌というほど学んだ。

これは、その延長線上にある。


「問題は……」


私は機関車の側面に手を置いた。


「加速と減速、ブレーキ。それと長時間運転時の安全性」


「そこは、試験走行で洗い出すしかありませんな」


「ええ。だからこそ、テスト線路が必要なの」


完成してから考える、はもうやらない。

作りながら、動かしながら、壊しながら、直していく。


それが、ここまで積み上げてきたやり方だ。


私はもう一度、鉄の塊を見上げた。


「……まだ、短い道ね」


今は、数十本のレールしかない。

走れる距離も、ほんのわずかだ。


でも。


「それでも、確実に“道”は出来始めてる」


誰に言うでもなく、そう呟いた。


この鉄の道は、まだ短い。

けれど、ここから先はいくらでも延ばせる。


蒸気を吐き、鉄の上を走るその日を思い浮かべながら、私は再び作業指示を出すため、踵を返した。


鉄の道は、もう止まらない。

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