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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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気になる種は未来の味

植物図鑑を閉じて、私は小さく息を吐いた。


「……やっぱり、気になるわよね」


アブアブの実。そして、テンテン菜。


片方は油、もう片方は砂糖――かもしれない可能性の塊だ。


特にテンテン菜の記述が、どうにも引っかかる。


動物への飼料として育てる地域もある。食用には向かず、アクが強く泥臭い。


書き方が、どこか歯切れが悪い。


「“そのまま食べると”って意味よね、これ」


甜菜だって、最初から甘いわけじゃない。煮詰めて、精製して、やっと砂糖になる。


知識が無い世界では、“食えない植物”で終わってしまうのも無理はない。


「……やっぱり、試さない理由が無いわ」


そう決めた私は、外套を羽織ってそのままロウガさんの所へ向かった。



「アブアブの実とテンテン菜?」


ロウガさんは、帳簿から顔を上げて眉をひそめた。


「随分とマニアックな植物を探してるな」


「そんなに?」


「普通は名前すら知らねぇ。アブアブの実は一部の地方で油を絞るくらい。テンテン菜は……家畜用だな。人間はまず食わねぇ」


「やっぱり」


私は内心で頷いた。


「各一キロくらいでいい?」


「十分だよ。来たら声かけて」


「おう、解った」


ロウガさんはそう言いながら、どこか“また始まったな”という顔をしていた。


でも、止めようとはしない。


――それが、この領地の空気だった。



屋敷へ戻る道すがら、私は考える。


油が取れれば、揚げ物が増える。

揚げ物が増えれば、保存と栄養の幅が広がる。


砂糖が取れれば、保存食、菓子、加工食品、あらゆる可能性が開く。


どれもすぐに結果が出る話じゃない。

失敗するかもしれない。


それでも――


「こういう“気になる”を潰さないでいられるの、贅沢よね」


誰かに命じられているわけでもなく、戦のためでもない。


ただ、未来の選択肢を一つ増やすためだけの試み。


私は、少しだけ嬉しくなった。


数日後、種が届くその時を思い浮かべながら。


――次に領地の食卓に並ぶ“当たり前”は、

案外、こんなところから始まるのかもしれない。


そう思いながら、私はゆっくりと歩を進めた。

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