対等という言葉の重さ
領主執務室に、ひと通の正式文書が届いたのは昼過ぎのことだった。
封蝋に刻まれた紋章を見た瞬間、父は思わず背筋を正した。
差出人――エドラン領主。
「……伯爵自ら、か」
静かに封を切り、文を読み進める。
内容は簡潔で、しかし重みがあった。
ガリオン領の現状整理、反乱鎮圧の進捗、難民の扱い、治安回復の見通し。
そこまでは想定内だった。
だが、最後の一文で父の視線は止まった。
――反乱終結までの間、正式な対等同盟関係として協力を要請する。
「……対等、だと?」
思わず声が漏れる。
伯爵と男爵。
本来であれば、命令する側と従う側だ。
それを、わざわざ「対等」と書き記す必要はない。
「……メイヤの見ている世界は、やはり一段違うか」
苦笑しつつも、父は深く息を吸い、机に向かう。
丁寧に、慎重に、しかし曖昧さを残さぬように。
協力の了承と感謝、そしてこちらも同盟として責務を果たす意思を、正式文書としてしたためた。
文を閉じた父は、すぐに次の指示を出す。
「住居を増設する。難民と、これから流入する者のためだ」
領地は、もう“元に戻す”段階ではない。
“拡張する”段階に入っている。
その頃――
「メイヤ様ー!」
研究棟に、少し弾んだ声が響いた。
「同じような性質の石、見つかりました!」
「ほんと!?」
メイヤは即座に顔を上げる。
学術員が差し出した石片は、色も質感も、記憶の中のそれに近い。
「ただし……」
学術員は少し言いづらそうに続けた。
「領内では、まだ見つかっていません」
「……そっか」
一瞬だけ、残念そうな表情を浮かべるが、すぐに切り替える。
「なら、ロウガさんに聞きに行こう。これ持って一緒に来て」
「え、これをですか?」
「うん。石の流通と採掘情報なら、あの人が一番早い」
ロウガの店先で、石を見せると、彼は顎に手を当てた。
「ふーん……使い道は?」
「使いたい予定はある。でもね、そもそも手に入らなきゃ実験すら出来ないの」
「なるほどな」
ロウガは少し考え込み、
「どこで出るか、調べるのに数日くれ。見つかったら馬車一台分くらい取り寄せてやる。それで足りるだろ?」
「十分すぎるわ。お願い!」
数日後。
「……悪い」
そう言いながら、ロウガは頭を掻いた。
「いや、正確には“悪くない”んだがな」
「?」
「馬車五台分、来る」
「……五台?」
「先日、エドラン領で土砂崩れがあってな。撤去した土砂の中に、お前が探してる石と同じ名前の石が混じってた」
「え?」
「捨てるくらいならくれてやる、って話になった。ただし――」
ロウガは肩をすくめる。
「五台分まとめて引き取れ、だとさ。捨てるの面倒だから、らしい」
一瞬、場が静まる。
そして。
「……ありがとう。最高よ、それ」
メイヤは、満面の笑みでそう言った。
実験には十分すぎる量。
失敗しても、配合を何度も試せる。
「やっぱり、流れが来てるわね」
誰に言うでもなく、そう呟く。
対等という言葉。
石が集まる偶然。
人と技術と土地が、少しずつ噛み合い始めている。
フェルナード領は、もう後戻りしない。
気づいてしまった価値は、静かに、しかし確実に形になり始めていた。




