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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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見慣れすぎた風景


領主である父は、執務机に突っ伏して頭を抱えていた。


「……なんだ、これは」


机の上には、メイヤから上がってきた報告書の束。


蒸気機関。

回転運動。

往復運動の変換。

鉄の棒の上を走る運搬装置――レール?


「……意味は、書いてある。説明も、ある。だがな……」


理解できるかどうかと、納得できるかどうかは別問題だ。


「突飛すぎる……」


父は溜息を吐き、立ち上がった。


「……一度、現物を見に行くか」


紙の上で悩むより、実物を見る方が早い。



領都の中心部を歩く。


「……随分、賑やかになったな」


行き交う人の数が増え、声がある。

露店も増え、建物は修繕や増築の最中。

以前からの住人と、新しく加わった者が混ざり合い、特に大きな摩擦もない。


「うむ……悪くない」


そう思った瞬間。


「……クスクス?」


どこからか、笑われたような気がした。


「……?」


歩みを止め、首を傾げる。


「気のせいか……?」


店先のガラスに映る自分の姿を見る。


「うむ。服装も問題なし。顔も……まあ、いつも通りだ」


再び歩き出すが――


「……やはり、視線を感じる」


何だ?妙だ。


「おう、珍しいな」


声を掛けられて振り返ると、そこにいたのはロウガだった。


「ロウガか。自分の領地を歩いていて悪いか?」


「いや、悪くはないさ。ああ、例の件な。市場には少しずつ流してる。問題はない」


「ああ、その件は頼んだ」


「フフフ」


またら何処からか笑われている様な。


「ロウガよ。私を見よ」


「ん?見たが?」


「何か変ではないか?」


「いや?特に?」


「……やはり気のせいか」


視線と笑われているような感覚。


「……ロウガ」


「何だ?」


「何か、分かっているな?」


「はは。成る程な。そうかそうか」


「何だ?」


「じゃあまず、こっちを見ろ」


ロウガは前方の街並みを指差した。


「どうだ?」


「どうだと言われても……立派な領都だ。活気もある。建物も増え、人も多い。見事だ」


「ほぅ〜、よく分かったな」


「当然だ。指示しているのは私だ」


「じゃあ次だ。後ろを見ろ」


「後ろ?」


振り返る。


「……?」


「どうだ?」


「……こちらも増築が進んでおり変わらぬが?」


「はぁ……」


ロウガは深く溜息を吐いた。


「いや、見慣れすぎてるな。じゃあ、第三者を呼ぼう」


通りを歩いていた男に声を掛ける。


「すまぬ。少しよいか」


「ん?あっ、領主様?」


「そうだ。お主は昔からの住人だな?」


「そうですが……」


「向こうの景色を見て、何を思う?」


男は一瞬、言葉に詰まった。


「え、ええと……その……」


ちらりと領主を見る。


「……またな!また店行くぞ!」


そう言って、足早に去ってしまった。


「……何だ?」


「次だ」


今度は、別の人物に声を掛ける。


「お主は……避難して来た者だな?」


「ああ、そうだ!」


「ここはどうだ?」


「住みやすい!正直、元の場所には戻りたくねぇな。今度、正式に領民申請するつもりだ!」


「そうか。そりゃーよかった!それで――」


父は街並みを指した。


「この景色を見て、どう思う?」


男は少し考え、肩を掻いた。


「元の街にも、立派な建物はあったさ。けどよ……」


一拍置いて続ける。


「俺らの税で、贅沢に作りやがってって、ずっと思ってた」


「……」


「でもよ、あれ、ここの領主様の屋敷なんだろ?」


「ああ」


「……正直、みすぼらしいな」


「……」


「なんかよ、貧乏くせーなって思っちまった」


男は苦笑する。


「でもな、不思議なんだ」


「不思議?」


「うん。もう少し立派な所に住めよって。何だろうな?あれだけ立派の見てた時はムカついてたけどな。今度は貧乏くせーと思ってるんだよな」


しばらく沈黙。


「……変な気分だな」


男はそう言い残して去っていった。



「……というわけだ」


ロウガが肩を竦める。


父は、しばらく黙って街を見渡していた。


「……なるほどな」


分かっていなかった。


いや――見えていなかった。


「私自身が、この風景の一部になっていたのか」


ロウガは笑った。


「そういう事だ。領主様」


「……」


父は、ふっと息を吐く。


「メイヤの報告書が、突飛に見えるわけだ」


「ほう?」


「あやつは、もう“次の風景”を見ている」


今の延長線ではなく、“見慣れていない未来”を。


「……敵わんな」


父は苦笑し、歩き出した。


「さて。問題の“蒸気機関”とやらを見に行くか」


ロウガは楽しそうに笑った。


「覚悟しとけよ。もっと頭抱える事になる」


「……それだけは、分かる」


こうして領主は、自分がどれだけ“見慣れすぎていたか”を、ようやく自覚し始めるのだった。

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