表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

153/197

線路の上の夢

思っていたより、ずっと上手くいった。


試作蒸気機関が、あの場で止まらず、壊れず、暴れもせずに“仕事をした”という事実。それだけで、胸の奥がじんわりと熱くなる。


「……よし。本命はここから、よね」


私は作業場の片隅で、炭の匂いがまだ残る中、スケッチ帳を開いた。


小型蒸気機関。

あの大きさを基準に、逆算する。


「うーん……」


鉛筆を走らせながら、頭の中で形を組み上げていく。


トロッコよりは少し小きい。

でも遊園地にある客車よりは大さい。

幅は……人族なら二人掛け。肩が触れるか触れないか、ぎりぎり。

獣族の大人だと一人分がちょうどいい。


「まぁ……客車は後回しでいいわね」


本命は“貨物”だ。


貨車の設計自体は、強化型荷馬車で散々やってきた。積載量、重心、揺れ、連結。問題点も対処法も、ある程度は頭に入っている。


問題は――


「蒸気機関車……」


小さく呟く。


加速。減速。停止。


特に停止だ。


蒸気の力は強い。一定以上になれば、止めるのは“力”ではなく“仕組み”の問題になる。


「ブレーキ……どうするかしら」


馬車なら馬が止まる。人なら踏ん張る。でも、機械は違う。


考えながら、私は深く息を吐いた。


「……再召集ね」


その日の午後。

蒸気機関の開発に関わった面々が、再び集められた。


鍛冶士のタルトさん。

錬金術師のブルーさん。

そして補佐の学術員たち。


全員が、少し期待と、少し警戒を混ぜた顔で私を見る。


「えー……今日は、次の段階の話です」


私はそう前置きして、描きかけの図を掲げた。


「蒸気機関を――“走らせます”」


一瞬の沈黙。


「……走らせる?」


ブルーさんが眉をひそめる。


「はい。地面の上を」


「いやいや待て」


タルトさんが即座に突っ込んだ。


「車輪付きなら馬車で十分だろ?何が違う」


「その“地面”が違います」


私は、図の下に描いた二本の線を指差した。


「この上を、走らせます」


「……鉄の、棒?」


「はい」


間が空く。


「鉄の棒を……引きずる?」


「いいえ」


私は首を振り、別の図を出した。


「“H型”です。断面が、こうなってます」


学術員の一人が目を見開いた。


「……車輪が、外れない?」


「そう。横に逃げない」


「……なんだそれは」


タルトさんが腕を組む。


「鉄の棒の上を、蒸気機関が走るって言いたいのか?」


「ええ。仮に名前を付けるなら――“レール”」


場が、ざわついた。


「地面に鉄を敷く?正気か?」


「大量輸送です」


私は即答した。


「馬の数に依存しない。人手も減る。天候の影響も少ない」


一人の学術員が、恐る恐る言う。


「……理屈は、分かります。でも……」


「作るのが大変?」


「いえ……そこまでして、何を運ぶんです?」


私は、少しだけ笑った。


「全部、です」


沈黙。


「木材。石材。穀物。資材。人。未来」


その言葉に、タルトさんがゆっくりと口角を上げた。


「……面白ぇ」


ブルーさんは頭を抱えた。


「発想が飛びすぎです……でも……」


学術員たちは、すでに図を覗き込み始めている。


「……理屈は、通ってます」


「蒸気圧と重量の関係を詰めれば……」


「ブレーキは……摩擦か?」


私は、その光景を見て、胸の奥がじんとした。


誰も、「無理だ」と言わなかった。


「じゃあ、決まりですね」


私はスケッチ帳を閉じる。


「次は――線路の上を走る蒸気機関です」


誰かが、小さく呟いた。


「……世界が、変わるぞ」


私は心の中で、そっと答えた。

――ええ。だから、作るのよ。

まだ誰も知らない、“線の上の未来”を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ