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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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回り始めた意味

工房に、まだ新しい油と蒸気の匂いが残っていた。


試作一号は、静かに冷えつつある。

さっきまで確かに動いていた――それだけで、ここにいる全員にとっては十分すぎる成果だった。


その横で、腕を組んだまま首を傾げている人物が一人。


「ところでよぉ、メイヤちゃん」


「何?タルトさん」


鍛治士タルトは、巨大な金属の塊……いや、正確には“回転する装置”を親指で指した。


「これ、何に使うんだ?」


「ずこっ」


思わず声が出た。


「そこから!?」


「いやいや、動くのは分かった。すげぇのも分かった。だがよ、何の役に立つのかが分からねぇ」


周囲の学術員たちも、気まずそうに視線を逸らす。どうやら、同じ疑問を抱えていたらしい。


メイヤは一度深呼吸して、機械の側へ歩み寄った。


「いい?今から説明するわね」


「おう」


彼女は、回転軸の先端を指差す。


「この動き、見てたでしょ。回転してる」


「おう、ぐるぐる回ってたな」


「じゃあ、この回転部分に――」


メイヤは空中に円を描く。


「丸い鋸の歯を付けたものを想像して」


「……おう?」


「その歯に向かって、丸太を押し出す」


一拍。


タルトは、はっとした顔になる。


「押し出せば……」


「そう」


「……板が、切れるな」


メイヤは、にっと笑った。


「それよ」


一気に工房の空気が変わった。


「今までは、二人一組で丸太の上に乗って、上下に鋸を動かして切ってたでしょ?」


「ああ。腰も腕もやられるやつだ」


「でもこれなら――」


メイヤは機械を軽く叩く。


「一人でも、簡単に板が切れる」


「……!」


タルトの目が輝いた。


「待てよ……って事はだ」


彼は急に興奮した様子で歩き回る。


「今まで二人必要だった作業が、一人で済む……」


「そう」


「じゃあ、余ったもう一人は……」


「この機械がもう一台あれば?」


タルトは、拳を打ち鳴らした。


「倍の板が作れるな!!」


「そう!それ!」


メイヤは勢いよく頷く。


「作業量は半分、成果は倍。人がやっていた事を、機械に任せる。もしくは、人の作業を補助してもらうの」


一瞬の静寂。


そして――


「……成る程なぁ」


タルトは、ゆっくりと笑った。


「これは“楽をする道具”じゃねぇ」


「?」


「人を増やさずに、仕事を増やす道具だ」


学術員の一人が、思わず呟く。


「……人手不足の領地向き、という事ですね」


「その通り」


メイヤは頷いた。


「今は人が増えても、すぐに熟練するわけじゃない。でも機械なら、作ればすぐ同じ働きをしてくれる」


タルトは、機械を見つめながら顎を撫でた。


「……よし」


「?」


「早速だ」


彼はぐっと袖をまくる。


「木材加工用に改良するぞ。回転軸の固定、送り台、歯の角度……」


「ちょ、ちょっと早くない?」


「早ぇ?何言ってんだ」


タルトは豪快に笑った。


「必要だって分かったら、やるだけだろ」


「それに――」


彼はニヤリとする。


「丸い歯も作らねぇとな。鍛治士の腕の見せ所だ」


メイヤも、自然と笑っていた。


「お願いするわ。木材、今かなり必要だから」


「任せとけ!」


タルトは拳を突き上げた。


「こいつが完成すりゃ、木工工場は一段階上に行くぞ!」


その様子を見ながら、メイヤは心の中で思う。


(……蒸気機関は、ただの力じゃない)


(人の手を解放して、次の仕事へ進ませる力)


この日、蒸気で回ったのは歯車だけではなかった。


領地の未来そのものが、静かに回り始めていた。

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