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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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試してみなけりゃ始まらない

蒸気機関の開発。

――正直に言えば、動くかどうかは分からない。


でも、だからこそだ。


私は机いっぱいに広げた設計図を見下ろしながら、深く息を吐いた。

円筒。ピストン。弁。圧力逃がし。

紙の上では、理屈は通っている。

けれど、この世界で、同じ挙動をする保証はどこにもない。


「……まあ、描くだけならタダよね」


そう呟いて、私は人を集めた。


呼んだのは、鍛治士のタルトさん。

錬金術師のブルーさん。

そして、工学と理論をかじっている学術員を数名。


場所は、木工工場の一角を改装した実験用の作業場だ。

最近は試作や研究に使う機会が増え、自然とこういう場が必要になってきている。


全員が揃ったのを確認して、私は設計図を壁に掛けた。


「……これが、今回考えた新しい動力装置です」


視線が一斉に集まる。


「水を加熱して蒸気を作り、その圧力で内部のピストンを押し動かします。その往復運動を回転に変えて、外部の機構――例えば、製材機や揚水装置に力を伝える、という仕組みです」


言いながら、図の各部を指でなぞる。


「燃料は木材や炭。継続的に動力を得られるのが利点です」


一拍、間が空いた。


学術員の一人が、恐る恐る口を開く。


「……確かに、理屈としては分かります。ですが……圧力制御が難しそうですね」


「金属疲労も問題になるでしょう。特にこの円筒部分」


「蒸気漏れが起きれば、事故にもなりかねません」


――ですよね。


内心で苦笑する。

想定していた反応、そのままだ。


「うん。危険性はある。だから小型から。まずは出力を抑えた試作機で、挙動を見る予定よ」


それでも、場の空気は慎重だった。

便利そうだが、未知数。

失敗した時のコストと危険を考えれば、躊躇するのも当然だ。


その時だった。


「ははっ!」


突然、豪快な笑い声が響いた。


タルトさんだ。


「難しい顔しやがって。だがよ、結局こういうのは――」


彼は設計図をじっと眺め、顎を撫でる。


「やってみなきゃ分からねえだろ?」


場の視線が一斉に彼に向く。


「金属加工なら任せろ。圧力?厚くすりゃいい。割れたら?次はもっと厚くする。それだけだ」


タルトさんは肩をすくめ、私を見る。


「なあ、メイヤちゃん。どうせ試してみなきゃ分からん物だろ?」


「……うん」


「失敗したら、やり直せばいい」


その言葉に、胸の奥が少し軽くなる。


「そう!ダメならやり直し。無理なら止めればいい!ただそれだけ!」


私がそう返すと、タルトさんは満足そうに頷いた。


「そう来なくちゃな!」


今度はブルーさんが、静かに笑う。


「錬金術でも同じです。理論だけで完成した物など、ほとんどありません」


彼女は設計図の弁の部分を指差した。


「この開閉機構、素材次第では面白い挙動をしそうですね。耐熱処理、こちらで協力しましょう」


学術員たちも、次第に表情を変えていく。


「……記録係、必要ですね」


「試験条件を分けて検証すれば、再現性も取れるかと」


「安全対策は……逃がし弁を二重に?」


空気が、確実に変わった。


最初は「未知の危険」だったものが、

今は「試す価値のある課題」になっている。


私は、少しだけ笑った。


「ありがとう。正直、私一人だったら、机上で終わらせてたかもしれない」


「はっ。そんな顔してる時点で、やる気満々だろ」


タルトさんが言う。


「俺達は今まで、ずっとそうやって来たんだ」


――失敗して、直して、積み上げる。


「よし。じゃあ決まりね」


私は設計図を一枚外し、机に置いた。


「小型試作一号。材料調達から始めましょう。危険管理は最優先で」


「任せろ!」


「こちらも準備します」


こうして、蒸気機関の開発は始まった。


動くかどうかは、まだ分からない。

成功する保証も、ない。


でも――


試さなければ、何も始まらない。


それだけは、確かだった。

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