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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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帰る場所と背負ったもの

領内に戻ったのは、夕暮れ時だった。


門をくぐった瞬間、張り詰めていた何かが、ふっとほどけた気がした。

ああ、帰ってきたんだ、と。


「おかえりなさいませ!」


門番の声が、やけに優しく聞こえる。

いつもと同じはずなのに、今日は少しだけ違う。


私は馬車から降りると、大きく伸びをした。


「はぁ〜……生き返るわ……」


「お嬢ちゃん、まだ気は抜くなよ?」


機構隊長が苦笑しながら言う。


「分かってる。でも、今日はちょっとだけ許して」


それだけで、みんな笑った。


屋敷に戻ると、すぐに父が呼んでいると伝えられた。書斎に入ると、父は窓際に立ち、外を見ていた。いつもより、少しだけ背中が小さく見える。


「……父上」


声をかけると、ゆっくり振り返った。


「無事に戻ったな、メイヤ」


「はい。何とか」


父は私をじっと見つめた後、深く息を吐いた。


「……随分と、顔つきが変わった」


私は思わず苦笑する。


「そうですか?」


「良い意味でも、悪い意味でも、だ」


机に向かい合って座る。


「報告は既に受けている。ガリオン領での戦闘、治安回復、難民の保護、補給路の確保……」


父は一つ一つ、確かめるように言葉を並べた。


「……よくやった」


その一言に、胸の奥が少しだけ熱くなる。


「でもね、父上」


私は、あえて言った。


「私、正しい事ばかりはしていません」


父の眉がわずかに動く。


「……どういう意味だ?」


「裏金も見つけたし、黙って持ち帰りました。

やり方も、正面からじゃない事ばかりです」


一瞬、沈黙。


父は目を閉じ、そして静かに笑った。


「……それを、誰のために使う?」


「領地と、領民のためです」


即答だった。父は頷く。


「なら、それは“統治”だ」


「父上……?」


「綺麗事だけでは、守れぬものがある。だが、欲に溺れれば、いずれ滅びる」


父は、私を真っ直ぐ見た。


「お前は、まだ踏み外していない」


その言葉に、肩の力が抜けた。


「……ありがとうございます」


「それで?」


父は、話を切り替えた。


「難民を引き受けるそうだな」


「はい。帰路の馬車で、少しずつですが」


「負担になるぞ」


「分かっています」


私は、少し考えてから言った。


「でも……見てしまったんです。家も、家族も、仕事も、全部失った人たちを」


父は黙って聞いている。


「見なかった事には、出来ませんでした」


「……そうか」


父は深く頷いた。


「なら、受け入れよう」


「え?」


「条件がある」


父は指を一本立てた。


「“施し”ではなく、“居場所”として受け入れる。働ける者には仕事を、学べる者には学びを」


私は思わず笑った。


「それ、私が言おうとしてた事です」


「親子だからな」


父も、少しだけ笑った。話が終わり、書斎を出る時。父が、ふと口を開いた。


「メイヤ」


「はい?」


「……無理はするな」


私は一瞬、言葉に詰まった。


「……はい。でも」


振り返って言う。


「無理しないと、守れない時もあります」


父は、何も言わなかった。

ただ、小さく頷いた。



その夜。


自分の部屋で、久しぶりにベッドに倒れ込む。


「……帰ってきたんだなぁ」


外では、領内のいつもの音がする。

遠くで、馬のいななき。

誰かの笑い声。


私は、目を閉じた。


守るものが増えた。

背負うものも増えた。


でも――


「悪くない」


そう呟いて、私は久しぶりに、何も考えず眠りについた。

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