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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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戻る道、背負うもの

エドラン歩兵隊が到着してからというもの、ガリオン領の空気は目に見えて変わった。

各地に配置された部隊は無駄な混乱を起こすことなく、淡々と、しかし確実に治安を回復させていく。地元出身で土地勘のある徴発兵を上手く組み込んだ編成は、まるでこの地のために用意されていたかのようだった。


「……流石、伯爵ね」


メイヤは遠くで指示を飛ばすエドラン領主の姿を眺めながら、小さく息を吐いた。

判断が早い。命令が明確。側近も軍司令官も、それぞれが自分の役割を理解して動いている。


「人材の層が違うわね……」


羨ましい、という感情は正直にあった。

フェルナード領では、まだ“揃えながら育てる”段階だ。だが、目の前で動くエドラン軍は、すでに完成された組織だった。


だが――問題は、ここからだった。


ガリオン領の内情は、調べれば調べるほど酷いものだった。

噂に違わず、いや、噂以上だった。


「……クソ、だったみたいね」


メイヤは報告書を閉じ、ため息をつく。

ガリオン領主の放漫な財政運営。

側近たちによる着服。

帳簿は合わず、税はどこへ消えたか分からない。

お抱え商人は既に夜逃げ同然で姿を消していた。


「これ……把握するだけで数年単位じゃない?」


近衛隊長も、機構隊長も、否定しなかった。


「ここまで壊れてるなら……」


メイヤは一瞬だけ、思考を巡らせる。


「一回、全部壊してから作り直した方が早そうだけど……」


しかし、それを自分が口にする立場ではないことも、よく分かっていた。

ガリオン領の処遇を決めるのはエドラン領主であり、王都だ。

フェルナード領は、あくまで“協力者”に過ぎない。


結局、会談で決まった通り、メイヤたちは補給と補給路の治安維持に専念することになった。

それ以上踏み込めば、立場を越える。


そして――


「全軍、領内へ帰還」


その決定が下された。


「はぁ〜……」


陣を引き払う準備を進めながら、メイヤは思わず本音を漏らした。


「これで、やっとのんびり暮らせるわ……」


本当に、そう思っていた。

あの瞬間までは。


エドランの文官が、控えめに、しかし確かな重さを持った声で切り出したのは、その直後だった。


「……フェルナード領に、もう少しだけ、難民を引き取っていただけないでしょうか」


理由は明白だった。

戦で屋台骨となる男性を失った家族。

略奪で家や店を焼かれ、行き場を失った老人たち。

エドラン領主がどれほど有能でも、全てを救うことはできない。


「……確かにね」


メイヤは頷いた。


「私たちも万能じゃない。でも……」


しばらく沈黙した後、彼女は結論を出した。


「戻る時に、一緒に連れて帰りましょう」


補給物資を届け、役目を終えて戻るその帰路。

その道に、行き場を失った人々を乗せる。

それなら、できる。


「随時、引き受けます。ただし――無理はしません」


その条件付きの合意に、文官は深く頭を下げた。


こうして、メイヤ一行は帰路についた。

荷馬車には物資だけでなく、新たな命の重みが加わっていた。


「……また、背負うものが増えたわね」


馬車の揺れの中、メイヤは小さく笑った。


のんびり暮らせる日など、まだ先だ。

それでも――戻る道があるだけ、今は良い。


フェルナード領へ向かう列は、静かに、しかし確実に進んでいった。

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