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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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予想より早すぎる到着

エドラン領主は、自らの目を疑っていた。


ガリオン領へと続く街道。その先から、次々と姿を現す荷馬車の列。

しかも、それらはただの輸送隊ではなかった。


「……歩兵隊を、馬車に乗せている……?」


本来、歩兵は歩く。

それが常識であり、補給の都合も含めて、軍の進軍速度は自然と制限される。


だが、目の前を進むのは――

強化された荷馬車に乗り込み、整然と隊列を組んだエドラン歩兵隊だった。


「報告では、到着はまだ数十日先のはずだったな?」


「はっ。そのはずでした」


側に控えていた腹心も、驚きを隠せない様子だった。


「……早すぎる」


それも、誤差の範囲ではない。

明らかに想定を超えた速度だった。


やがて先頭の馬車が止まり、歩兵隊指揮官が下馬する。


「領主様。歩兵隊、予定より早く到着いたしました」


「聞こう。何があった?」


指揮官は一礼し、少し言葉を選ぶようにしてから答えた。


「フェルナード領に到着した際、すでに決まっていたそうです。我が軍が使用していた荷馬車は、すべて改造する、と」


「……改造?」


「はい。その地で、すでに準備が整っておりました」


指揮官は、すぐ脇に停められている荷馬車を示した。


「伯爵からは、“注文を受けている”との事で。この馬車を渡すから、これに乗って進軍せよ、と」


エドラン領主は無言で馬車に近づいた。


「だが……なぜ、これほど早く移動できた?」


「それは……こちらをご覧ください」


指揮官は、しゃがみ込み、車軸を指差す。


「……鉄?」


「はい。正確には、鉄を束ね、補強した構造かと。さらに車軸そのものも鉄製です」


エドラン領主は目を細めた。


「だから揺れが少ないのか……」


「その通りです。揺れが少ないため、兵を乗せても疲労が少なく、通常の一・五倍ほどの荷を積んでも問題ありません」


「荒地でも?」


「はい。車軸が頑丈なため、速度を落とす必要がほとんどありません」


指揮官は、少し誇らしげに続けた。


「補給物資も多く積めますし、移動が早い分、消費も抑えられました」


「なるほど……」


エドラン領主は、深く息を吐いた。


「素晴らしい荷馬車だな」


「はい。領主様の購入判断は、まさに英断かと」


「……そのようなお世辞は要らん」


そう言いながらも、視線は荷馬車から離れなかった。


――これが、フェルナード領の“技術”か。


金を払っているとはいえ、これほどのものを、惜しげもなく軍に使わせるとは。


「度量が大きいのか……」


それとも。


「……自分の持つ価値を、まだ理解していないのか」


ふと、王都の情勢が頭をよぎる。


王都の裏で、何かが動いているという噂。

商人たちの動き。

物流の変化。

軍の再編。


「……まさか」


エドラン領主は、静かに呟いた。


「王都の裏で起きている事……その中心にいるのが、あの小さな男爵領だとしたら……」


荷馬車の列は、なおも続いていた。


それは単なる輸送隊ではない。

戦の形そのものを変えかねない――

“動く力”だった。


エドラン領主は、無意識のうちに拳を握りしめていた。


「……恐ろしいものを、我々は味方につけたのかもしれんな」


その言葉を、誰に聞かせるでもなく。


ただ、低く、噛みしめるように呟いた。

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