それぞれの帰路と重み
早速、臨時編成された帰還部隊は、この地を後にしていった。
見送るメイヤは、しばしその背を黙って眺めていた。
一度は戦場に立ち、混乱と恐怖を越えた者たちの背中は、出立の時よりも確かに大きく見えた。
「……さて」
小さく息を吐き、メイヤは踵を返す。
「私達は私達で、やるべき事をやらないとね」
この地にはまだ火種が残っている。
反乱は潰えつつあるが、完全に鎮まったわけではない。
だからこそ、前線に残る者は気を抜けない。
一方その頃――。
帰還部隊は、街道の途中で長大な車列とすれ違っていた。
エドラン歩兵隊だ。
「……うわ」
思わず学生の一人が声を漏らす。
歩兵隊を乗せた荷馬車は延々と続き、旗と装備が規則正しく揺れている。
兵の数も、統制の取れ方も、これまで見てきた戦とは明らかに違った。
「さすが侯爵の兵力だな……」
臨時指揮官役を任されていた学生が呟く。
「それに……リディアさんの領地、こんなに荷馬車あったんだな」
「改造までされてるしな……」
「俺らが使ってたのと同じ型だ……」
感嘆と、どこか誇らしさが混じる。
あの戦場で使われていた物が、今や正規軍の補給線に組み込まれているのだ。
「ここですれ違ったって事は……」
学生指揮官は地図を確認し、頷く。
「エドラン歩兵隊も、もうすぐガリオン領に到着だな」
互いに簡潔な情報交換だけを行い、帰還部隊は再び領地を目指して進んだ。
それから数日後。
帰還部隊は、無事フェルナード男爵領へと到着した。
城門前に整列する学生達の表情は、出発時とはまるで違っていた。
疲労はあるが、目に宿るものが違う。
「領主様!只今、帰還いたしました!」
学生隊臨時指揮官の声が響く。
「お疲れ様」
領主はゆっくりと彼らを見渡した。
「……苦労をかけたな」
その一言で、学生達の背筋が自然と伸びる。
送り出した時の、どこか頼りなさの残る姿は、もうそこにはなかった。
「帰還部隊は一時解散とする。ゆっくり休め。次の指示があるまで待機だ」
「はっ!」
一斉に返る声は、見事に揃っていた。
「近衛、機構の方々は後ほど話を聞く」
そう告げた後、学生指揮官が一歩前に出る。
「領主様。文を預かっています。ご確認をお願いします」
「うむ、解った」
受け取った文を開く。
――学生隊が守った極秘荷物は、一目の付かない所で確認して下さい。
――ロウガさん立ち合いの元、今後に有効活用を。
――また、ガリオン領からの避難民には、可能な限り寛大な処置を。
「……一目の付かない所?」
領主は首を傾げる。
「なぜロウガ……?」
しかし、すぐに息を吐いた。
「まあ、メイヤが言うなら……そうするか」
その日の内に、ロウガが呼び出された。
「呼び出して悪かったな、ロウガ」
「いえ。極秘荷物、ですか?新商品でしょうか?」
「さあな……私も詳しくは聞いていない」
人目につかない倉庫の奥。
厳重に封をされた荷が、三台分並べられていた。
「では……開けるぞ」
蓋を開けた瞬間。
「――――――は?」
言葉が落ちる。
「おい……何だ、これは……!?」
金貨、銀貨。
宝石類。
豪奢な装身具。
箱の中には、溢れんばかりの財が詰め込まれていた。
「……これが、三台分?」
ロウガの声が震える。
「……半端じゃない量だぞ……」
領主は頭を抱えた。
「……メイヤのやつ……強盗でもしたのか……?」
「いや……」
ロウガは真顔で首を振る。
「これは……計画的だ。金は兎も角、宝石類も選別されている。換金しやすい物が中心だ」
「……なるほどな」
領主は苦笑した。
「確かに、極秘にするわけだ」
「これだけあれば……」
ロウガは静かに言う。
「数年分の資金にはなります。いや、それ以上かもしれません」
「金庫に入れておけ」
「……入る金庫があれば、ですが」
二人は顔を見合わせ、苦く笑った。
「……前線で、何をしているんだ、あいつは……」
領主は天井を仰ぐ。
戦場で兵を指揮し、領地を守り、
その裏で、領の未来を支えるだけの“重み”を持ち帰ってくる。
「……本当に、恐ろしい子だな」
その呟きは、誰に向けたものでもなく、ただ静かに倉庫に溶けていった。
次の戦いは、まだ終わっていない。




