ホクホク芋と八十八穀のための水辺探し
ホクホク芋の導入が決まり、メイヤは早速、協力してくれる農家たちの畑へ向かった。
今日の目的は二つ。
一つ目、ホクホク芋の“苗の取り方”を教えること。
二つ目、八十八穀を育てるための、水辺となる土地の下見。
その道すがら、ミュネが感心したようにつぶやいた。
「メイヤ様……本当に作物に詳しいのですね」
「え? あっ、ええと……本で読んだのよ!」
苦笑しながら歩くメイヤの胸は、期待でわずかに弾んでいた。
(ここから先、領地が大きく変わり始める……!)
──そして最初の農家に到着する。
■ ホクホク芋の“苗づくり”講習会!
「メイヤ様、本当にこの芋を植えればいいんですか?」
農家たちは、蒸した芋を食べた時の衝撃をまだ忘れていないらしく、目がキラキラしている。
「もちろん! でも芋を丸ごと植えるわけじゃないの。今日は“苗作り”からやります!」
畑の脇に設置された台の上に、ホクホク芋を並べる。
その横には、メイヤが前日に準備した“芽出し済みの芋”も用意されていた。
芋の一部から、にょきっとツル状の芽が伸びている。
「こ、これは……?」
「この伸びたツルを、畑に植えて苗にするのよ」
農家全員が「??」という顔をした。
メイヤは芋を手に取り、説明を続ける。
「芋そのものは“母体”みたいなもの。ここから伸びたツルを切って、土に挿して……」
すっと、伸びたツルを根本から切り取る。
ひゅん、と空気を切る音に、農民たちがのけぞる。
「メ、メイヤ様っ!? 芋を……切り捨てた……!」
「大丈夫大丈夫! これで“苗”ができるのよ」
切り取ったツルをそのまま地面の柔らかい区画に挿し、軽く土をかぶせる。
「はい、これで苗植え完了!」
凍りつく農民たち。
ひとりが恐る恐る手を挙げた。
「こ、こんなので本当に……芽が出るんですか……?」
「出るわ! 根っこもすぐ生えるし、ホクホク芋は生命力が強いの。むしろ芋そのものを植えるより、こうしたほうが増えるし効率が良いのよ!」
「……なんじゃそりゃぁ……」
ついに誰かが呟いた。
それを皮切りに、
「芋を切って挿すだけで土に根付くって、本当なのか……?」
「魔法か……?」
「いや、メイヤ様の知識が魔法なのでは?」
とざわざわと畑が揺れた。
「ふふ、大丈夫よ! ちゃんと育つから!」
メイヤは自信満々に笑い、農家たちは半信半疑ながらも、次々にツルを切って植えていった。
実際にやってみると簡単で、手も早い。
「……なるほど……これは確かに効率的だ」
「芋一個から苗がたくさん取れる……すげえ……」
メイヤは胸を張る。
(よしっ、ホクホク芋は“みんなで育てる体制”が整った!)
■ 八十八穀のための“水辺探し”
ホクホク芋の講習を終えたメイヤは、次の目的地へ向かう。
「八十八穀は普通の畑じゃ難しいから……水を使う畑が必要なのよね」
「はい。近くに小川はありますが、田のような場所は……」
「湿地みたいなところは?」
「……ありますが……」
ミュネが少し歯切れ悪く答える。
不思議に思いながらついていくと──
領地の外れに、小さな湿地帯が広がっていた。
草が生い茂り、地面はしっとり湿っている。
水も染み出しており、八十八穀にはちょうどよさそうだ。
「ここ……! ここなら出来そう!」
メイヤはぱっと顔を輝かせた。
すぐ近くに住む家へ向かい、土地を使っていいか確認する。
ピンポーン(的なノック)。
「す、すいません! この湿地を、少しお借りしてもいいですか?」
家の主は驚いたように目を白黒させた。
「え、えぇ……!? ど、どうぞどうぞ!!」
やけに慌てている。
(そんなに驚かなくても……)
と首を傾げていると、ミュネが隣でぼそっと呟いた。
「……メイヤ様。領地の土地はすべて“領主様”のものです」
「えっ!? そうなの?」
「はい。ですので“使っていいですか”と聞かれると……住民は断れません」
「…………」
ようやくメイヤは気づいた。
(そ、そうか……! 私、“領主の娘”だった……!!)
家の主は恐縮してペコペコしている。
「あ、あの……ほんの少しだけです! 本当に少し! 迷惑はかけませんから!」
メイヤが慌てて手を振ると、ミュネが小声でため息をついた。
「……そもそも御領主様のご家族が使いたいと言えば、誰も逆らえません」
「そういうの、もっと早く言ってよ~~!」
ミュネは困ったように眉を寄せた。
「メイヤ様が“領民に優しい言い方をする”から……言いづらくて……」
「うぅ……優しくしてるつもりはないのに……!」
苦笑しつつ、湿地の視察を続ける。
長さ、幅、水の深さ、近くの流れ。
小川からの水の引き込みも、工夫すればできそうだ。
(うん……ここなら、八十八穀の“試験栽培”にはちょうどいい!)
ミュネも頷いた。
「ここなら、領主館からも近く、管理がしやすいですね」
「よし、決まり! ここを“実験田んぼ”にしましょう!」
■ 新しい作物、領地に根付くか?
ホクホク芋は苗の大量生産が可能。
農家の心もつかんだ。
八十八穀は、まずはメイヤが主導で小規模栽培。
成功すれば農村全体に広げる計画だ。
「ふふ……なんだか、農業改革みたいになってきたわね!」
ミュネは笑いながら首をかしげる。
「メイヤ様がやっているのは、もはや“領地改革”では?」
「そ、そう? まだ始まったばかりよ!」
メイヤは遠く湿地を眺めながら、小さく拳を握った。
(ホクホク芋で領民の生活を安定させて、八十八穀で食文化を豊かにして……絶対に成功させるんだから!)
こうして、領地に新しい未来を呼び込む二つの作物が、静かに芽吹き始めたのだった。




