闇夜の教会と静かな強奪
深夜。
月明かりすら頼りない夜道を、三台の強化型荷馬車が音を殺すように進んでいた。
「……ねえ、機構隊長さん。本当にこんな所にあるの?」
馬車の揺れに合わせて、メイヤが小声で尋ねる。
「あ、ああ……間違いねぇ。密偵が掴んだ場所だ」
そう答える声にも、わずかな不安が滲んでいた。
やがて馬車は、長年人の手が入っていないような建物の前で止まった。
崩れかけた尖塔、割れたステンドグラス、風に軋む扉。
「……教会、よね?」
「教会……だった、が正しいな」
苔むした壁を見上げながら、機構隊長が答える。
「何か……不気味ね」
「私も正直、怖いんですけど……」
参加者は四人。
リディア、メイヤ、機構隊長、そして近衛隊長。
近衛隊長は、終始小声でぶつぶつと呟いていた。
「……何でこの俺が、こんな夜中に……
コソ泥みたいな真似を……
いや、任務だ。これは任務だ……」
何かと必死に自分を納得させている様子だった。
その時だった。
「うゎ!!」
突然、メイヤの目の前に“人影”が現れた。
「おいおい!密偵が姿を現すな!何考えてるんだ!」
機構隊長が思わず声を荒げる。
だが、現れた密偵は慌てる様子もなく、静かに手招きをした。
「……なに?」
メイヤが恐る恐る近づく。
(……忍者みたい。うん!すごく良い)
密偵の手にあったのは、小さな竹筒――
あの時限発火装置だった。
「ん?発火装置?」
密偵は、嬉しそうに何度も頷く。
「……使い勝手、良かった?」
さらに勢いよく頷く。
今度は発火装置を指差し、そして手を差し出してきた。
「……もっと欲しい、って事?」
満面とは言えないが、明らかに“喜んでいる”雰囲気だった。
「解ったわ。隊長さんに渡しておくから、あとで受け取って!」
「おい!密偵が催促するな!」
機構隊長のツッコミも虚しく、密偵は少し不満げに手招きをしながら、建物の一角――壁を指差した。
「……壁?」
「この壁の向こう、って事かしら?」
「待て」
機構隊長は壁に近づき、慎重に手で撫でる。
「……ここだな」
軽く押した瞬間、壁が静かに回転した。
その奥に広がっていたのは――
金貨、銀貨。
宝石を散りばめた装飾品。
豪奢な花瓶、彫刻、宝石箱。
「うお……!!」
「すげぇな……」
機構隊長と近衛隊長が息を呑む。
メイヤの口元が、わずかに歪んだ。
「……当たりね」
リディアは言葉を失って立ち尽くしていた。
「よし。運び出すわよ!」
「密偵も手伝って、ね?」
密偵は無言で頷き、すでに動き出している。
「お姉ちゃん、ちょっと待って」
メイヤが声を上げた。
「絵は、そのままにしておいて」
「え?なんで?高そうじゃない。売れば――」
メイヤは小さく指を振る。
「絵はね、作者が有名だったりすると足がつくの。現金化にも時間が掛かるし……」
リディアは一瞬考え、すぐに納得したように頷いた。
「……確かに。貧乏男爵領から高名な絵が出回ったら、目立ちすぎるわね」
「現金化しやすくて、足が付きにくい物から優先よ」
「なるほどね!」
機構隊長は、完全に引いていた。
「……嬢ちゃん。お前、盗賊経験者か?発想が親玉だぞ」
「バカ言わないで。さっさと積んでズラかるわよ!」
「その言い回しも、完全にそれだ!」
近衛隊長は、相変わらずぶつぶつ言いながらも、黙々と積み込みを続けていた。
数時間後。
三台の強化型荷馬車が軋むほどの重さを抱え込み、静かにその場を後にした。
誰一人として、振り返る者はいなかった。
闇夜に取り残された教会は、何事もなかったかのように沈黙を守り続けていた。




