ねこばば作戦始動
ふぁ〜あ……。
思わず口から間の抜けた声が漏れた。
目をこすりながら天幕の外に出ると、朝の空気がやけに冷たい。
「あ〜眠いわ……」
「おはよう、嬢ちゃん」
「ゆっくり休めたか?」
両隊長が、すでに起きて地図を広げていた。
どうやら私は、かなりしっかり寝てしまったらしい。
「まあ……それなりにね」
正直に言えば、短いながらも久しぶりに“何も考えずに”寝た感覚だった。
「お姉ちゃんは?」
「学生隊を率いて、領民に飯を作って配ってるぞ」
「それはよかっ――」
言いかけて、首をかしげる。
「……お姉ちゃん、料理できたっけ?」
両隊長が同時に目を逸らした。
「いやまあ……」
機構隊長が咳払いを一つ。
「最初はな、“謎スープ”を作り始めてな……」
「止められてたがな」
近衛隊長が苦笑する。
「学生隊の中に料理人の倅がいてな。慌てて交代させて、何とか食える物になった」
「あはは……」
頭の中で、鍋をかき混ぜるリディアの姿が容易に想像できた。
「でも、ありがたいわね。食事を配るのは、今の状況じゃ何よりの安定剤だもの」
私がそう言うと、機構隊長が少し真面目な顔になる。
「しかし……思い切った方針を打ち出したな」
「仕方ないでしょ」
私は肩をすくめた。
「そうでもしないと、被害を受けるのはいつも立場の弱い人たち。略奪も、混乱も、結局そこに集中する」
「……だがよ」
近衛隊長が現実的な疑問を投げる。
「うちの財政、大丈夫か?」
その言葉に、私も一瞬だけ視線を落とした。
「正直……ギリギリね」
補給、輸送、治安維持。
どれも金がかかる。しかも即効性がある分、消費も早い。
「そこでだ」
機構隊長が、にやりと笑った。
「嬢ちゃんに、面白い話を教えてやる」
「面白い話?」
一気に眠気が引いた。
「うちの密偵がな……面白いもんを見つけた」
「……何を?」
「ガリオン領主の裏金だ」
一瞬、空気が止まった。
「……ほぅ」
私の目が、自然と細くなる。
「勿論な」
機構隊長は続ける。
「裏金だから帳簿にも載ってねぇ。本当に“公式に存在するか”は確認できない」
「なるほど」
「それに、エドラン領主はまともな人が。。戦後処理でどこまで報奨が出るかも、今のところは不明だ」
つまり――。
「となると……」
私は静かに結論を口にした。
「これは、頂くしかないわね」
「そう!その通り!」
機構隊長が即座に同意する。
「おい!!」
近衛隊長が慌てて声を張り上げた。
「俺の前でそんな話をするな!近衛だぞ俺は!」
「大丈夫よ」
私はにっこり笑った。
「聞かなかったことにしてくれるでしょ?」
「ぐ……」
近衛隊長が言葉に詰まる。
「機構隊長さん」
私は一歩踏み出した。
「極秘作戦を発動するわ」
「おう」
「――ねこばば作戦、開始よ」
「……名前どうにかならんのか」
「駄目。分かりやすさ重視」
天幕の外では、鍋の湯気と、領民のざわめきが広がっている。
表向きは復興と救済。
裏では、戦後を見据えた資金確保。
「戦は終わっても、やる事は山ほどあるわね」
私の呟きに、機構隊長が笑った。
「それが嬢ちゃんだろ」
こうして――
次の一手は、静かに、しかし確実に動き出した。




