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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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秩序が壊れた街で

街に入った瞬間、異変は誰の目にも明らかだった。


道端に倒れた荷車。割れた木箱からこぼれ落ちた穀物。踏み荒らされた畑。

そして、家々の扉には無理やり破壊された跡が生々しく残っている。


「……ひどい」


メイヤは、思わずそう呟いた。


つい数日前まで、ここは普通に人が暮らす街だったはずだ。

市場があり、子どもが走り回り、日常があった場所。


今は、恐怖と混乱だけが残っている。


「略奪だな……」


機構隊長が低く言う。


「敗残兵が、組織を失ったまま武器だけを持って街に流れ込んだ。指揮も統制もない。だから一番弱い所から壊していく」


道の端で、住民たちが身を寄せ合うようにして座り込んでいた。

年寄り、女、子ども。誰もが怯えた目で、武装した一行を見つめている。


「大丈夫です」


メイヤは馬車から降り、できるだけ目線を合わせるように声を掛けた。


「私たちは、あなた達を守りに来ました」


その言葉に、張り詰めていた空気が、わずかに緩む。


だが、完全に安心できるはずもない。

ここでは、“兵”という存在そのものが、恐怖の象徴になってしまっている。


「学生隊、周囲警戒!装甲馬車は中央に展開、避難民を囲う形で!」


学生達は即座に動いた。

まだ若い顔だが、馬上からクロスボウを構える姿は、もはや素人ではない。


通りの先で、怒号と金属音が響いた。


「来るぞ!」


徴発兵が、残党兵と交戦しているのが見える。

貴族の紋章を外した鎧、統一されていない武装。

略奪の途中で、武器を手放す気など最初からない者達だ。


「撃て!」


クロスボウの弦音が、乾いた音を立てて連続する。

学生隊の機動弓兵は、馬を動かしながら、確実に足と腕を狙った。


「逃げるぞ!引け!」


略奪兵は混乱し、散り散りに後退する。

彼らは“戦場”ではなく、“獲物のいない街”を求めていただけだった。


その流れを、騎兵が断ち切る。


エドラン領主率いる騎兵隊が、前方から突入した。


「包囲を完成させろ!逃がすな!」


馬蹄の音が地面を震わせる。

統制の取れた騎兵の動きは、略奪兵にとって悪夢そのものだった。


戦闘は、長くは続かなかった。


武器を捨て、地面に伏す者。

逃げようとして、騎兵に捕らえられる者。


街に、ようやく静けさが戻る。


エドラン領主は、馬上から街を見渡していた。


「……これが、反乱の後に残る現実か」


側近が近づく。


「しかし、領主様。ひとつ気になる点が」


「何だ?」


「フェルナード軍の荷馬車です。我々騎兵が全速で進軍しているにも関わらず……追いついてきています」


領主は眉をひそめた。


「……確かにおかしい。通常の補給馬車では、絶対に不可能だ」


「はっ。詳細は不明ですが、荷馬車に何らかの改良を施しているとの目撃情報があります」


「改良、か……」


領主は、少しだけ笑った。


「なるほどな。あれが無ければ、我々はここまで迅速に民を救えなかったという訳か」


街の中央では、装甲馬車が展開され、避難民に食糧と水が配られている。

馬も、人も、守られた状態で動いている。


「……恐ろしい程の機動性だ」


側近が頷く。


「はい。戦略面、戦術面の双方において、画期的と言えます」


エドラン領主は即断した。


「フェルナード領主へ文を送れ。私の名を使って構わん」


「内容は?」


「あの荷馬車を、数十……いや、百近く。改良、もしくは購入したいと伝えろ」


「はっ!」


領主は、再び街を見た。


瓦礫の中で、ようやく息をつく民。

それを守る為に立つ、幼い指揮官と学生兵。


「……時代が、動いているな」


剣ではなく、数でもなく。

“仕組み”で戦場を変える者達が、確かにここにいた。


そしてその中心に、静かに立つ少女の姿を、エドラン領主は見逃さなかった。


次の戦は、もっと大きくなる。

そう確信しながら、彼は馬の手綱を握り直した。

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