動き出す形
鹵獲した馬たちが整然と並ぶ光景は、何度見ても壮観だった。
数だけで言えば五十頭近い。しかもほとんどが荷馬車用とはいえ、ちゃんと訓練された馬だ。辺境の男爵領では、本来あり得ない規模だろう。
「じゃあ、今日からよ。学生達に馬の扱いを覚えてもらうわ」
そう宣言すると、近衛と機構の手の空いている者達が自然と集まってきた。
命令というより、皆が状況を理解して動いている感じだ。これが、今回の戦いを経て生まれた“場の空気”なのだと思う。
学生達は最初、完全に気圧されていた。
大きな馬、鞍、鐙、手綱。どれも日常からかけ離れている。
「大丈夫だ。まずは触れろ。怖がると馬も怖がる」
近衛の一人がそう言って、学生の手を引いて馬の首に触れさせる。
最初はびくっとしていた学生も、次第に落ち着いていった。
「……思ったより、温かい」
その呟きに、少し笑いが起きる。
私も当然、騎乗を試みた。
……が、現実は残酷だった。
「嬢ちゃん、無理だな」
「背が足りない」
「二人乗りならいけるが……」
三方向からほぼ同時に言われた。
「……分かってるわよ」
内心ちょっと悔しい。
この身体に引っ張られている感覚は、やっぱりまだ拭えない。
同じように、学生達の半数近くが「一人では厳しい」判定を受けていた。
背、体重、脚力。どれも不足している。
「仕方ないわね」
そう言いながら、ふと閃いた。
「ねえ。二人乗りって、後ろの人、手が空くわよね?」
近衛と機構の面々が、一斉にこちらを見る。
「後ろに学生を乗せて、クロスボウを持たせたらどう?」
一瞬の沈黙。
「……騎弓兵、いや、機動弓兵か?」
機構の一人が、ぽつりと呟いた。
「学生一人じゃ無理でも、二人なら安定する。前は操馬、後ろは射撃に集中できる」
言いながら、私の中で形が固まっていく。
「試しにやってみましょう。訓練だけでも」
反対は出なかった。
それどころか、機構の何人かはすでに馬上でクロスボウを構えている。
「俺らは一人で乗れるが……学生には丁度いいかもしれんな」
実際に試すと、予想以上に感触は良かった。
速度は出せないが、移動しながら射撃が可能。何より、学生達の表情が変わった。
「……できる」
「これなら……役に立てる」
その小さな自信が、何より大きい。
並行して、荷馬車の改造も進んでいた。
簡易装甲はすでに取り付けられているが、それだけでは足りない。
「馬も守るわよ」
そう言うと、工作隊が即座に動いた。
荷馬車の周囲に支柱を立て、紐を引けば木製の簾が垂れ下がる仕組み。さらに簡易な屋根。
「矢なら、これでかなり防げる」
完全な防御ではない。
でも、“当たらない”だけでなく、“当たっても致命傷になりにくい”というのは、戦場では決定的だ。
「装甲馬車、ってところね」
冗談めかして言うと、周囲が少し笑った。
夕方、訓練場を見渡す。
馬に触れる学生、二人乗りの練習、装甲馬車の最終調整。
ここに来て、ようやく“動く形”が見え始めた気がした。
「騎兵は無理でも……機動力は手に入った」
小さく呟く。
数で勝てないなら、形で崩す。
正面から殴り合わず、相手の想定を外し続ける。
まだ未熟で、穴だらけで、それでも――
この領地は、確実に変わり始めている。
私はその中心で、次の一手を考えていた。




