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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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動き出す形

鹵獲した馬たちが整然と並ぶ光景は、何度見ても壮観だった。

数だけで言えば五十頭近い。しかもほとんどが荷馬車用とはいえ、ちゃんと訓練された馬だ。辺境の男爵領では、本来あり得ない規模だろう。


「じゃあ、今日からよ。学生達に馬の扱いを覚えてもらうわ」


そう宣言すると、近衛と機構の手の空いている者達が自然と集まってきた。

命令というより、皆が状況を理解して動いている感じだ。これが、今回の戦いを経て生まれた“場の空気”なのだと思う。


学生達は最初、完全に気圧されていた。

大きな馬、鞍、鐙、手綱。どれも日常からかけ離れている。


「大丈夫だ。まずは触れろ。怖がると馬も怖がる」


近衛の一人がそう言って、学生の手を引いて馬の首に触れさせる。

最初はびくっとしていた学生も、次第に落ち着いていった。


「……思ったより、温かい」


その呟きに、少し笑いが起きる。


私も当然、騎乗を試みた。

……が、現実は残酷だった。


「嬢ちゃん、無理だな」


「背が足りない」


「二人乗りならいけるが……」


三方向からほぼ同時に言われた。


「……分かってるわよ」


内心ちょっと悔しい。

この身体に引っ張られている感覚は、やっぱりまだ拭えない。


同じように、学生達の半数近くが「一人では厳しい」判定を受けていた。

背、体重、脚力。どれも不足している。


「仕方ないわね」


そう言いながら、ふと閃いた。


「ねえ。二人乗りって、後ろの人、手が空くわよね?」


近衛と機構の面々が、一斉にこちらを見る。


「後ろに学生を乗せて、クロスボウを持たせたらどう?」


一瞬の沈黙。


「……騎弓兵、いや、機動弓兵か?」


機構の一人が、ぽつりと呟いた。


「学生一人じゃ無理でも、二人なら安定する。前は操馬、後ろは射撃に集中できる」


言いながら、私の中で形が固まっていく。


「試しにやってみましょう。訓練だけでも」


反対は出なかった。

それどころか、機構の何人かはすでに馬上でクロスボウを構えている。


「俺らは一人で乗れるが……学生には丁度いいかもしれんな」


実際に試すと、予想以上に感触は良かった。

速度は出せないが、移動しながら射撃が可能。何より、学生達の表情が変わった。


「……できる」


「これなら……役に立てる」


その小さな自信が、何より大きい。


並行して、荷馬車の改造も進んでいた。

簡易装甲はすでに取り付けられているが、それだけでは足りない。


「馬も守るわよ」


そう言うと、工作隊が即座に動いた。

荷馬車の周囲に支柱を立て、紐を引けば木製の簾が垂れ下がる仕組み。さらに簡易な屋根。


「矢なら、これでかなり防げる」


完全な防御ではない。

でも、“当たらない”だけでなく、“当たっても致命傷になりにくい”というのは、戦場では決定的だ。


「装甲馬車、ってところね」


冗談めかして言うと、周囲が少し笑った。


夕方、訓練場を見渡す。

馬に触れる学生、二人乗りの練習、装甲馬車の最終調整。


ここに来て、ようやく“動く形”が見え始めた気がした。


「騎兵は無理でも……機動力は手に入った」


小さく呟く。


数で勝てないなら、形で崩す。

正面から殴り合わず、相手の想定を外し続ける。


まだ未熟で、穴だらけで、それでも――

この領地は、確実に変わり始めている。


私はその中心で、次の一手を考えていた。

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