拾い物が多すぎる日
鹵獲品が届いた。
数えてみれば、荷馬車が十四台。それを引いていた馬に加え、逃げ出して周囲をうろついていた馬まで回収した結果、合計で五十頭近い。
「……大漁ね」
思わずそう呟いてしまうほどだった。
しかも質がいい。全部、もともと荷馬車を引いていた馬だ。軍馬ほどの瞬発力はないが、持久力と従順さは申し分ない。
荷馬車は到着と同時に、即座に改造に回した。車軸の補強、板ばねの設置に荷台の高さ調整、簡易装甲。今のうちにできることは全てやる。
「荷物の中身は?」
「ほとんど糧食です」
報告を受け、内心で小さくガッツポーズをした。
乾燥穀物、干し肉、塩、豆類。量も十分で、この分だけでも数十日はうちの部隊を賄える。
敵が置いていった物だが、こちらからすればありがたい話だ。
「エドランの歩兵隊は?」
「到着まで、あと十日前後とのことです」
十日。
短いようで長い。長いようで、戦況次第では一瞬でもある。
私は地図の前に立ち、指で線をなぞりながら考える。
今、こちらに居る戦力は――
近衛、機構、学生を合わせて約六十名。数は少ないが、少なくとも“組織として動く”ことができる。
建築隊は戦闘要員ではないが、防備構築と陣地維持では欠かせない存在だ。
問題は志願兵。
彼らは勇敢だし、今回もよく動いてくれた。
でも、組織ではない。あくまで個の集合体だ。ここから先、機動戦や連携を求める局面では足を引っ張る可能性が高い。
「……連れて行くのは危険ね」
決断は早い方がいい。
志願兵は領内に残す。臨時警備隊として再編し、防衛と治安維持に専念してもらう。
前線に出す戦力ではないが、背後を任せるには十分だ。
「問題は……」
視線が、馬のいる方向へ向く。
五十頭。
馬。
荷馬車。
補給。
「……騎兵、諦めきれないのよね」
自分でも苦笑する。
軍馬は高価で、調達も難しい。今まで手を出せなかった理由は山ほどある。
でも、今は違う。
「近衛と機構の人達は、馬の扱いができるわよね?」
「ああ。最低限はな」
機構隊長が頷く。
「なら、学生達に慣れてもらいましょう」
一瞬、場が静まった。
「いきなり騎兵として使うわけじゃないわ。世話、騎乗、移動。まずは“馬と一緒に動く”ことを覚えてもらう」
馬に乗れるだけで、移動距離も選択肢も一気に広がる。
偵察、連絡、補給。全部が変わる。
「歩兵が来るまでの十日間、やる事は多いわ」
私は地図を畳み、顔を上げた。
「戦いは一段落。でも、準備はこれからが本番よ」
火縄銃を使わずに済んだのは幸運だった。
でも、それは“次”があるという意味でもある。
切り札は温存できた。
なら、その間に――さらに切り札を増やすだけ。
静かな陣地の中で、歯車は確実に回り始めていた。




