状況は?
「ふぁ〜……」
メイヤは大きく伸びをしながら、ゆっくりと上体を起こした。
「よく寝てしまったわね。これくらいの徹夜で寝落ちするなんて……」
自分の手を見つめ、軽く握って開く。
「やっぱり、この身体に引っ張られてるのかしら?」
以前なら、三日四日くらい平気で起きていた。だが今は違う。疲労が溜まれば、意識がすとんと落ちる。良くも悪くも、“この世界の身体”に順応してきている証拠だった。
天幕の外はすでに明るい。
「それにしても……援軍が来てくれて本当に助かったわ」
思い出すのは、砂煙を上げて突入してきた騎兵隊の姿。
「騎兵って、やっぱりかっこいいわよね。うちにも欲しいくらい……」
ふと苦笑する。
「まあ、軍馬は高いって聞くし。うちにいるのは荷物を引く馬ばっかりだもの」
少し考え込んでから、ぽつりと呟いた。
「……でも、あの馬で騎兵やるのも、案外ありかしら?」
すぐに首を振る。
「いやいや、無理無理」
だが内心では、完全に否定しきれていなかった。
「おかげで、こっちの切り札――火縄を使わずに済んだし」
メイヤの表情が引き締まる。
「私の中じゃね、切り札を切るなら“さらに切り札を持て”が基本なの」
使わずに済んだ、という事実そのものが、今後の余地を残している。
「さて……これからどうしましょうか」
敵を引きつけ、王都への進軍は確実に阻止した。だが、ここで終わりではない。
「司令場、行くか」
メイヤは立ち上がり、天幕を出た。
司令場では、機構隊長が地図を前に腕を組んでいた。
「おぉ。お嬢ちゃん、ゆっくり休めたか?」
「ええ。ゆっくり寝れたわ〜」
あっさり答えると、機構隊長は目を細めた。
「そりゃ何よりだ」
「状況に変化は?」
「あー……そうだな」
機構隊長は指で地図をなぞりながら説明する。
「エドラン騎兵隊が、敗走した反乱軍をどっつき回してな。完全に散らした後、もう戻ってきてる」
「流石ね」
「それだけじゃねぇ。俺の部下が、敵が置いていった糧食と馬つきの荷馬車を捕獲した。今、こっちに戻ってる最中だ」
「……いいわね」
メイヤの目が一瞬だけ光る。
「捕獲した荷馬車は、戻り次第すぐに強化型に改造して」
「即かよ」
「即よ。輸送力は命」
「了解だ」
機構隊長は肩をすくめつつも、否定はしなかった。
「エドラン領主様は?」
「今は自軍の歩兵隊の到着待ちだな。騎兵だけじゃ、街に入って治安維持は難しいからな」
「そう……」
メイヤは少し考え込む。
「戦略的には、このままエドラン軍と一緒に進軍するのが正しい……のよね」
「まあ、本来ならそうだ」
機構隊長は、言葉を選ぶように続ける。
「だが……」
「……うちの軍は、正規軍がいない、よね」
メイヤが先に言った。
「そうだ」
機構隊長は苦笑する。
「今回は、陣地に籠って戦えただけ、まだマシってところだな」
「ええ……」
メイヤは地図を見つめたまま、静かに頷いた。
正面から進軍し、野戦で王都を救う――それは、今の男爵領には荷が重すぎる。
「でもね」
メイヤは顔を上げる。
「“戦えない”わけじゃない。“戦い方が違う”だけよ」
機構隊長は、その言葉に小さく笑った。
「確かにな。今回も、それを嫌ってほど見せられた」
メイヤは、まだ静かな戦場跡を見渡す。
「このまま終わるとは思ってないわ。だから……次を考えましょう」
戦いは一区切りついた。
だが、物語はまだ先へ進む。




