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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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そして決着と二つ名

騎兵隊の指揮官は、馬上から即座に状況を見切っていた。


「追撃せよ!敗走している敵兵を逃がすな! 散開し、包囲を維持しろ!」


鋭い号令が飛び、騎兵たちは迷いなく動く。

逃げ惑う敵兵の背後を押さえ、無理な深追いはせず、確実に戦線を崩壊させていった。


その中で、血にまみれ、よろめきながら立っている太った男へ、騎兵隊の指揮官は馬を進めた。


「ガリオン領主よ。降伏せよ。既に勝敗は決した」


その声は静かだったが、有無を言わせぬ重さがあった。


「な、何だと……この私に向かって……!」


太った指揮官は震える腕で剣を握り直す。


「ならば――首を刎ねるまでだ」


剣先が、はっきりとガリオン領主を指した。


「くっ……貴様……お前は……エドラン領主の……?」


「いかにも」


一瞬の沈黙。


「もう一度言う。降伏せぬなら、首を刎ねる」


周囲を見回せば、味方は散り散りに逃げ、誰一人として戻ってこない。

自分の号令も、怒号も、もはや届く者はいなかった。


「…………」


太った指揮官は、ついに剣を取り落とした。


「……降伏する」


その場で身柄を拘束され、戦は完全に終わりを迎えた。



騎兵隊の指揮官は、馬を降り、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。


「久しいな、リディア殿。メイヤ殿」


「あっ!」


メイヤが声を上げる。


(思い出した!エドラン領主だ!王都へ行く時に挨拶した!)


自ら兵を率いて、援軍として駆けつけた人物だった。


「本来なら、もう少し早く合流できたのだが……」


そう言って、リディアの方を見る。


「しかし、リディア殿。一騎討ちを申し出た時は、肝が冷えたぞ?」


「あはは……」


リディアは頬をかきながら、視線を逸らした。


「勢いで……つい?」


エドラン領主は苦笑し、次にメイヤへ向き直る。


「メイヤ殿。話は聞いた。見事な作戦だ」


その目には、明確な敬意があった。


「小勢で敵を誘い、削り、混乱させ、決定的な隙を作る。正面からぶつからず、戦わずして勝ちに近づけた……恐れ入った」


メイヤは一瞬だけ照れたように視線を外し、すぐにいつもの調子に戻る。


「助けに来てくれてありがとう。正直、あなたが来なかったら、次は危なかったわ」


「いや。こちらこそだ」


エドラン領主は戦場を見渡し、深く息を吐いた。


「……この戦は、ここで終わりだな」


朝日が昇る中、散乱する武器と逃げ去った敵兵の背を照らしていた。

男爵領を巡る最初の大きな戦いは、こうして決着を迎えた。



「長い行軍、本当にありがとうございます。ささやかですが……せめて、温かい食事を」


メイヤがそう声をかけると、エドラン領主は苦笑しながら手を振った。


「戦場だ。気を遣う必要はない。それよりも、まずは状況整理だな」


そう言いながらも、差し出された椀から立ち上る湯気に、周囲の兵の表情はわずかに緩んでいた。


メイヤはすぐに指示を飛ばす。


「敵が捨てていった武器を回収して。壊れていない物は分類、矢や弓も忘れずに。怪我人の確認も並行して」


建築隊、志願兵、近衛、機構兵が静かに動き出す。その様子を、エドラン領主は黙って眺めていた。


「……実に無駄がない」


ぽつりと、感想が漏れる。


ひと通りの対応が落ち着いたところで、エドラン領主とメイヤ、機構隊長は簡単な情報交換に入った。反乱軍の動き、王都周辺の空気、各地で起きている小規模な騒乱。


互いに話し終えた後、エドラン領主は改めて二人を見つめた。


リディアは、疲れも見せず剣を手入れしている。先ほどまで血と土にまみれていたとは思えない落ち着きだ。

メイヤは、地図と報告書を並べ、次の手を静かに組み立てている。


「……なるほどな」


エドラン領主は小さく頷いた。


「リディア殿は、まるで戦場を操る獣使いだ。敵の動きも、味方の士気も、自然と手中に収めている。バトル・テイマー、とでも呼ぶべきか」


リディアは顔を上げ、きょとんとした。


「え?なにそれ?」


「褒め言葉だ」


次に、エドラン領主の視線はメイヤへ向く。


「そしてメイヤ殿……火は見えぬが、確実に焼き尽くす。音もなく、逃げ場もなく。サイレント・フレイム……実にしっくり来る」


メイヤは一瞬だけ目を瞬かせ、すぐに小さく笑った。


「物騒な二つ名ですね」


「戦場では、誉め言葉だ」


その後、今後の動きについて話が及ぶ。


「私はこのまま街に入り、反乱鎮圧の状況を確認する。その後、情勢次第では王都へ向かうつもりだ」


エドラン領主は一拍置き、続けた。


「本来なら、男爵家にも同行を頼みたいところだが……」


視線の先では、リディアとメイヤが並んで、いつの間にか眠っていた。戦いが終わった安堵と、限界まで張り詰めていた疲労が、一気に表に出たのだろう。


「……仲良く寝てしまったな」


「あー……すみません」


機構隊長が頭をかく。


「気を抜くと、すぐ倒れるんですよ。ここ数日、ほとんど寝てませんでしたし」


エドラン領主は首を横に振った。


「謝る必要はない。こんな幼子たちに戦をさせているのは、我々大人の責任だ」


そう言い、ふと視線をずらす。


「ところで……もう一人。言いたくなければそれでいいが」


近衛隊長の方を見て、静かに言った。


「王都で、お主を見た覚えがある」


「……さあ?どこにでもいる顔ですので」


曖昧に笑って誤魔化す近衛隊長に、エドラン領主はそれ以上踏み込まなかった。


「まあいい」


そして、再び本題に戻る。


「今後、どう動くつもりだ?本来なら、王都へ援軍として向かうのが筋だが……」


機構隊長は少し考え、眠る二人を見た。


「お嬢ちゃんたちは、反乱軍を王都へ行かせず、ここに引き寄せることを優先してましたが」


「なるほど……」


「起きてから、改めて聞きますよ。それまでは、休ませてやりたい」


エドラン領主は頷いた。


「そうだな。こちらも補給と休息が必要だ。お言葉に甘えよう」


そうして、その場は一旦解散となった。


少し離れた場所で、エドラン領主の腹心が声を潜めて尋ねる。


「領主様。相手は男爵です。強制的にでも同行させなくてよろしいのですか?」


「本来なら、そうだ」


エドラン領主は低く答える。


「だが……あの場には近衛隊長の1人がいた」


「近衛……?なぜ、この辺境に?」


「それだけではない。もう一人も、ただ者ではない」


腹心は息を呑む。


「傭兵……いえ、機構、でしょうか?」


「おそらくな。王都の連中が、何か裏で動いている」


エドラン領主は空を見上げた。


「しかも近衛が動いているという事は……」


言葉を切り、静かに続ける。


「私も、慎重に動かねばならんようだ」


その視線の先で、夜明けの光が、静かに戦場を照らし始めていた。

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