思わぬ所から!?
「――ちょっと待ったーー!!」
間の抜けた、しかしよく通る声が戦場に響いた。
「……へ?」
「……へ?」
「……へ?」
男爵領側も、反乱軍側も、そしてメイヤですら、同時に同じ反応をしていた。
声のした方――見張り台。
その屋根の上に、いつの間にか腕を組んで仁王立ちしている人物がいる。
風に揺れる外套。やけに堂々とした立ち姿。
「……リディア?」
メイヤが思わず名前を口にする。
そう、そこにいたのはリディアだった。
しかも――
「そこの陣の真ん中にいる、いっちばん偉そうな奴!!」
指をビシィッ!と突き出す。
「そうそう!そのぶくぶく太ったおっさん!!」
敵陣がざわつく。
「自分だけいいもん食って!贅沢して!平民から搾取した挙句!自分は安全な場所で見物か!?いいご身分ねぇ!!」
完全に火力が高い。
「その腰に下げてる剣!!あれは何!?お飾り!?飾り剣!?それとも腰抜けの証!?」
敵指揮官の顔が真っ赤になる。
「男ならその剣を抜きなさいよ!!」
さらに追撃。
「それとも……あんたの“それ”、もう使い物にならないのかしらぁ!?」
一瞬の沈黙。
――ぷっ。
誰かが、堪えきれず吹き出した。
――ぷっ、くくっ。
敵陣の、しかも後方からだ。
「なっ……!?」
反乱軍指揮官、完全に顔面蒼白から茹でダコへ。
「わ、私を愚弄する気か!!」
「してるに決まってるでしょ?」
リディアは即答だった。
そして、見張り台の屋根の上で、剣の柄に手をかける。
「――私と」
一瞬、間を置いて。
「一騎討ちをしなさい!!」
戦場が、完全に止まった。
「……え?」
「……一騎討ち?」
「……学生じゃなかったのか?」
敵味方、全員の脳が処理落ちしている。
男爵領側。
「……何てこったい、お姉さん……」
機構隊長が、頭を抱えた。
「いや、あれ止めなくていいのか?」
近衛隊長が小声で聞く。
「……今止めたら、逆に怒られる気がする」
誰も動けない。
敵指揮官は、周囲の視線を感じながら、ぎりぎりと歯を鳴らした。
(平民に笑われた……!逃げたと思われる……!)
「……よかろう」
ついに、剣を抜く。
「貴様如きに、貴族の剣の重みを教えてやる!!」
その瞬間。
男爵領側のあちこちから、「あっ……」という声が漏れた。
メイヤは、額に手を当てて小さく呟く。
「……乗ったわね」
完全に。
「想定外だけど……」
リディアは、屋根の上で満面の笑みを浮かべていた。
「よーし!じゃあ始めましょ!!」
――戦場は、思わぬ方向へ転がり始めていた。




