本隊同士初対面
「……ありゃあ、領主の旗だな」
見張り台から戻ってきた兵の一言で、場の空気が一段引き締まった。
「敵の“ボス”が、前に出てきてるぞ」
その言葉に、メイヤは双眼鏡を下ろした。
確かに、敵陣の中央付近。ひときわ目立つ旗印と、その下で馬上に立つ人物がいる。周囲を固める騎兵の装備も、明らかに他とは違っていた。
「……そうなのね」
メイヤは小さく息を吐く。
「正直、“正しい戦い方”がまだよく分からないのよね」
「どういう意味だ?」
機構隊長が首を傾げる。
「貴族同士の戦いって、本来は何か“しきたり”みたいなものがあるのかしら?」
「うーん……」
機構隊長は顎を掻いた。
「特別な決まりはねぇな。まあ、よくあるのは――」
「あるのは?」
「口上を述べる、とか。名乗り合いとかだな」
「……なるほど」
「あと、一騎討ちの申し入れ、とか?」
その言葉に、近衛隊長が鼻で笑った。
「今どき、そんな事を言い出す貴族がいたら、逆に尊敬するな」
「でしょうね」
メイヤも同意する。
「そもそも向こうは反乱軍。正式な戦争ですらないわ。一騎討ちする理由もない」
「だな」
そう話している間にも、敵陣から一騎、ゆっくりと前に出てくる者がいた。
白馬に跨り、胸を張り、明らかに“代表”と分かる動き。
「……あれは」
「口上要員だな」
機構隊長が即答した。
「話す気満々だ」
馬上の人物は、こちらとの距離を測るように進み、声が届く範囲で馬を止めた。
深く息を吸い込み、口を開こうとした、その瞬間だった。
「――待ちなさい」
凛とした声が、戦場に響いた。
全員の視線が、メイヤに集まる。
彼女は一歩前に出て、敵を真っ直ぐに見据えた。
「こちらは、貴殿らを反乱軍として認識しています」
静かな、しかし一切の揺らぎのない声。
「よって――」
一拍置き、はっきりと言い放つ。
「口上を述べる権利は、ありません」
その言葉は、矢のように突き刺さった。
敵の騎兵は、明らかに言葉を失った様子で馬上に固まる。後方の敵陣にも、ざわめきが走った。
「……お、おい」
機構隊長が小声で囁く。
「随分、バッサリ行ったな」
「ええ」
メイヤは視線を逸らさない。
「ここで“対等な貴族同士”を演じる必要はないわ」
近衛隊長が、低く笑った。
「なるほどな。向こうの“格式”を、最初から叩き折るわけか」
「そう」
メイヤは頷く。
「これは儀式じゃない。内乱よ」
敵の騎兵は、数瞬の沈黙の後、怒りと屈辱を滲ませた顔で踵を返した。
その背中を見送りながら、メイヤは呟いた。
「……さて」
彼女の視線は、敵陣全体へと向けられる。
「ここからは、“話し合い”じゃないわね」
空気が、完全に戦のものへと切り替わった。
夜明けの光の下、二つの軍が、ついに真正面から向かい合った。




