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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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敵本隊の進軍開始と察知

部隊の再編は終わった――はずだった。


「……一千名、をやっと超える程度だと?」


報告書を握り潰す勢いで、反乱軍の指揮官は声を荒げた。


「おかしいだろう。確か、三千以上は動員できると言っていたはずだ!」


副官は目を伏せたまま、歯切れ悪く答える。


「は……召集には応じましたが、その……三分の二近くが、逃亡、もしくは行方不明です」


「……何?」


「訓練を受けていない者、日銭目当てで雇われた者が多く……混乱の中で、その……」


指揮官は舌打ちした。


「チッ……」


原因は分かっている。

軍の準備を怠り、数合わせでかき集めた平民兵。

鎧も揃えず、規律も教えず、「王族に逆らえば儲かる」という甘言だけで集めた連中だ。


その代償が、これだ。


「真っ先に逃げ出すのは、いつも腰抜けだな……」


この戦力では、王都へ進軍するなど自殺行為に等しい。

正規軍と当たれば、瞬時に瓦解する。


かといって、例の男爵領へ向かっても――。


「……無駄に兵を失うだけか」


あの領地は、もはや“弱小”ではない。

偵察が阻まれ、補給が乱れ、百名規模の部隊ですら戻ってこない。


報告を思い返すだけで、胃の奥が重くなる。


「……はぁ」


思わず、溜め息が漏れた。


「領主様に、なんと報告すればいい……」


その時だった。


「はぁ? 何だそれは!!」


天幕の奥から、怒声が響いた。


「全く!平民どもは使えない奴らばかりだ!」


姿を現したのは、この反乱を主導する領主本人だった。

顔は紅潮し、怒りを隠す様子もない。


「兵が逃げた?訓練不足?そんなもの、言い訳にもならん!」


指揮官が慌てて跪く。


「も、申し訳ありません。しかし現状の戦力では――」


「黙れ!」


領主は一喝した。


「この私が、直々に出る!」


天幕の空気が凍りつく。


「領主様ご自身が……?」


「そうだ。腰抜けどもに任せておけるか。私が前に立てば、逃げる者などおらん!」


その自信は、どこから来るのか。

だが誰も、口を挟めなかった。


「……進軍方向は?」


恐る恐る尋ねる副官に、領主は鼻で笑った。


「弱小男爵領に決まっておるだろう!」


「そんな事も分からないのか!」


指揮官は、胸の奥に嫌な予感を覚えた。


王都へ行けぬなら、せめて“格下”を叩く。

それが、彼らの選択だった。


だが――。


その男爵領が、すでに“想定外”の牙を研いでいる事を、この場の誰一人として、正確には理解していなかった。


進軍命令が下される。


それは、敗北へと向かう行軍の始まりだった。


「……いよいよ、こっちに向かって来てるそうよ」


見張りからの報告を受け、メイヤは地図から顔を上げた。


「数は?」


「一千ちょっと、ってところだな」


機構隊長の声は低いが、どこか現実を測る冷静さがあった。


「まあ、だいぶ削れたわね。でも……」


「それでも、こっちの五倍以上だ」


近衛隊長が静かに補足する。


「そうね。油断は禁物、か」


メイヤは短く息を吐いた。


しばし沈黙が落ちる。


「……しかし、お嬢ちゃん。本当に大丈夫か?」


機構隊長がふと尋ねた。


「昨日からほとんど休んでないだろ。少しは横になってるのか?」


「なーに」


メイヤは軽く肩を回した。


「一日くらいの徹夜、問題なしよ。こっちは――」


にやりと笑う。


「二十四時間戦えますか〜、ビジネスマン!ジャパニーズ・ビジネスマン世代よ!」


「……は?」


機構隊長が固まる。


「ひし……ねすまん?」


「しゃぱ……にーず?」


近衛隊長も首を傾げた。


「あっ、何でもない何でもない」


メイヤは手を振った。


「昔の呪文みたいなものだから、気にしないで」


二人は納得していない顔だったが、それ以上は追及しなかった。


その時――。


「見えました!」


見張り台から声が飛ぶ。


「敵軍、確認!夜明けと同時に進軍しています!」


全員が外へと視線を向けた。


薄明の中、地平線の向こうに、黒い塊がゆっくりと動いているのが見える。


槍の先が朝日に反射し、揺れる旗が、確かにこちらを目指していた。


「……来たわね」


メイヤは小さく呟いた。


「想定通り。数も、動きも」


その目に、迷いはなかった。


「各隊、配置につかせて。火縄はまだ伏せたまま」


「了解」


「ここからが本番よ」


夜が明け、戦の朝が始まろうとしていた。

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